橋下徹氏は、だんだんプーチンの代理人になってきた。細かい話だが、これはよく出てくるので事実関係を整理しておく。
ブカレスト宣言というのは、2008年4月のNATO首脳会談で、米ブッシュ大統領、独メルケル首相、仏サルコジ大統領などが集まって出された文書である。そこにはこう書かれている。
これは外交文書によくある玉虫色の表現で、両国の「加盟申請」を認めたようにみせながら、その「評価」は12月の外相会合に先送りした。しかしドイツとフランスが加盟に反対したため、この話は立ち消えになった。それから14年たっても、ウクライナにはMAPステータスもない。
NATOは紛争当事国であるウクライナとジョージアの加盟を拒否し、ゼレンスキーもそれは認めた。ウクライナの中立(NATO非加盟)は、よくも悪くも既成事実なのだ。ところがプーチンは「ウクライナは非加盟を文書で確約しろ」と要求し、それに応じないという理由でウクライナを侵略した。
これは暴力団が事務所の隣の家に「おれの家に泥棒に入らないと約束しろ」と因縁をつけ、約束しないといって隣の家に強盗に入ったようなものだ。橋下氏はこんなプーチンの言いがかりを認めるのか。
しかしアダム・ロバーツは、ミアシャイマーの解釈に疑問を呈している。NATO加盟には全加盟国の同意が必要なので、独仏の反対していたウクライナとジョージアの加盟は不可能だった。これはブッシュがヨーロッパで主導権を握ったようにみせるアメリカ国内向けのリップサービスだった。
このようなアメリカとEUの分裂でNATOは弱体化し、予算も減っていた。NATOが東方拡大したのではなく、東欧各国がロシアの脅威を避けるためにNATOに加盟したのだ。「東方に拡大しないという約束は存在しない」というアメリカの主張は正しいが、結果的に拡大したことは事実である。
ソ連という「帝国」が崩壊したあとバラバラになった各国が西欧に組み込まれたことは、プーチンの疑心暗鬼を生んだ。彼を追い詰めると窮鼠猫を噛むので危険だ、というミアシャイマーの警告は正しかった。
アメリカの元NATO大使ダールダーの意見はもっと強烈だ。「ウクライナ戦争の惨状をみれば、ミアシャイマーも同じことはいえないだろう。NATO拡大が戦争をもたらしたというのは逆だ。NATOは2008年にウクライナとジョージアの加盟を認めるべきだったのだ」という。
いずれにしても、ウクライナ加盟の可能性がないのに「将来加盟する」と明記したブカレスト宣言が大失敗だったことは、多くの専門家が認めている。このようなNATOの曖昧さがプーチンに侵略のコストを過小評価させたとすれば、西側に責任がなかったとはいえない。
少しはきちんと調べろよ。2008年ブカレストNATO首脳会談では、実質的な加盟準備入りを意味するMAPへのウクライナ参加は独仏の反対で見送られたが、「将来加盟国となるべき(will become member)」という文言が盛り込まれた。ここにプーチンは猛反発して、非加盟宣言しろとこの2月まで続いてたんだよ。 https://t.co/V2MpeW7u6B
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) March 29, 2022
ブカレスト宣言というのは、2008年4月のNATO首脳会談で、米ブッシュ大統領、独メルケル首相、仏サルコジ大統領などが集まって出された文書である。そこにはこう書かれている。
NATOに加盟したいというウクライナとジョージアのユーロ大西洋的な願望を歓迎する。本日われわれは、これらの国々が将来NATOの加盟国になることに合意した。
本日われわれは、これらの国の(加盟の準備段階となる)加盟行動計画(MAP)申請を支持することを明確にした。2008年12月の会合で、外相に進捗状況の最初の評価を行うよう求めた。
これは外交文書によくある玉虫色の表現で、両国の「加盟申請」を認めたようにみせながら、その「評価」は12月の外相会合に先送りした。しかしドイツとフランスが加盟に反対したため、この話は立ち消えになった。それから14年たっても、ウクライナにはMAPステータスもない。
NATOは紛争当事国であるウクライナとジョージアの加盟を拒否し、ゼレンスキーもそれは認めた。ウクライナの中立(NATO非加盟)は、よくも悪くも既成事実なのだ。ところがプーチンは「ウクライナは非加盟を文書で確約しろ」と要求し、それに応じないという理由でウクライナを侵略した。
これは暴力団が事務所の隣の家に「おれの家に泥棒に入らないと約束しろ」と因縁をつけ、約束しないといって隣の家に強盗に入ったようなものだ。橋下氏はこんなプーチンの言いがかりを認めるのか。
「NATOに参加させる」というアメリカの空手形
陰謀論者がよく引き合いに出すのは、ミアシャイマーのNATO東方拡大批判だ。彼によればプーチンはブカレスト宣言に激怒し、「ウクライナがNATOに加盟したら、クリミアと東部地域を失うことになる」と警告したという。しかしアダム・ロバーツは、ミアシャイマーの解釈に疑問を呈している。NATO加盟には全加盟国の同意が必要なので、独仏の反対していたウクライナとジョージアの加盟は不可能だった。これはブッシュがヨーロッパで主導権を握ったようにみせるアメリカ国内向けのリップサービスだった。
このようなアメリカとEUの分裂でNATOは弱体化し、予算も減っていた。NATOが東方拡大したのではなく、東欧各国がロシアの脅威を避けるためにNATOに加盟したのだ。「東方に拡大しないという約束は存在しない」というアメリカの主張は正しいが、結果的に拡大したことは事実である。
ソ連という「帝国」が崩壊したあとバラバラになった各国が西欧に組み込まれたことは、プーチンの疑心暗鬼を生んだ。彼を追い詰めると窮鼠猫を噛むので危険だ、というミアシャイマーの警告は正しかった。
NATOの曖昧さがプーチンを「誘惑」した
しかしブカレスト宣言の曖昧さが、ウクライナを「緩衝国」とする力の空白を生んだ。NATOはウクライナを本気で支援しないだろうとみてプーチンは侵略に踏み切った、というのがマーチン・ウルフの見方である。アメリカの元NATO大使ダールダーの意見はもっと強烈だ。「ウクライナ戦争の惨状をみれば、ミアシャイマーも同じことはいえないだろう。NATO拡大が戦争をもたらしたというのは逆だ。NATOは2008年にウクライナとジョージアの加盟を認めるべきだったのだ」という。
いずれにしても、ウクライナ加盟の可能性がないのに「将来加盟する」と明記したブカレスト宣言が大失敗だったことは、多くの専門家が認めている。このようなNATOの曖昧さがプーチンに侵略のコストを過小評価させたとすれば、西側に責任がなかったとはいえない。