
私たちが持続可能性に焦点を合わせるのは環境保護主義者であるからではなく、資本家であり、クライアントの受託者であるためです。その一環として、温室効果ガス削減の短期、中期、長期の目標を設定するよう企業に求めています。これらの目標、およびそれらを達成する計画の質は、株主の長期的な経済的利益にとって重要です。つまり短期的な利益にはならないと認めたわけだ。大企業にとってCO2排出量を減らす簡単な方法は、化石燃料部門を売却することだが、フィンクは「当社は資産売却ではなく投資によって脱炭素化を進める」という。ではどうやって長期的な利益が出るのか。その鍵は政府だという。
企業はこれを単独で行うことはできず、「気候警察」になることもできません。 それは社会にとってよい結果をもたらさないでしょう。 政府が持続可能性のための政策、一貫した分類、規制、そして全市場での情報開示を進める明確な道筋が必要です。要するに持続可能性を保障するのは政府の仕事なのだ。ではなぜ企業が政府の仕事をするのか。それによる株主の利益は何か。これは政府に圧力をかけて特定の企業を規制や補助金で有利にするインサイダー取引ではないのか。
政治を利用して巨額の利益を上げる「政商」
効率的市場仮説が正しいとすれば、特定の銘柄を選ぶアクティブファンドでインデックスに勝つことはできない。それが可能なのは、ESG活動が一般の企業にはない株主価値を生み出す場合だ。たとえば「あの会社は石炭を使わないから商品を買おう」というように脱炭素化が利益を生み出す場合は、次の図のBのようにESG活動で株主価値が最大化される。
しかしBより右では、ESG活動によって株主価値は下がる。ほとんどの消費者は、その会社がどんな燃料を使っているかは知らないし、調べもしないだろう。
もう一つの可能性は、ファンド運用者がインサイダー情報をもっている場合である。ジョージ・ソロスなどの大手ファンドは当局と強いつながりを持ち、政府を利用して巨額の利益を上げる政商である。
インサイダー情報を得る最強の方法は、自分がその情報を生みだすことだ。ブラックロックも2008年のベア・スターンズ救済では連邦政府に恩を売り、ファンドも利益を上げた。政府が利益を保障してくれたからだ。2009年には英バークレイズを買収し、同じように巨額の利益を上げた。
そしてフィンクが「生涯で最大の相場」と呼ぶのが、ESG投資である。エクソンモービル の株主総会で、ブラックロックは気候変動戦略への不満を表明したアクティビスト取締役の推薦した3候補に賛成票を投じた。
昨年1月のダボスでは脱炭素化に50兆ドルの投資が必要だと講演し、7月のG20では民間の再エネ投資を世界銀行とIMFが債務保証する「官民パートナーシップ」を提案した。これは米政府がベア・スターンズの不良資産を取り除いてブラックロックに売却したのと同じ手法である。
政府が負担するには損失が大きすぎる
フィンクは「資本主義のハイエナ」から「環境保護の伝道師」に変身し、今やグレタ・トゥーンベリと並ぶスターである。COP26では代替エネルギーに投資インセンティブを設けるよう各国政府に要請したが、炭素税の創設には反対した。化石燃料の需要を抑制しないで、政府の補助金だけでエネルギー転換しろというのだ。だがフィンクには気の毒なことに、その補助金の額は、彼の想定よりはるかに大きい。IEAの計算では毎年4兆ドル、2050年までに120兆ドルが必要だ。それは各国のGDPの5%に相当し、それを負担する国はどこにもない。
フィンクのねらいは、脱炭素化投資の利益を資本家が取り、損失は政府に負わせようというものだが、化石燃料の供給を制限しないでCO2を減らすことはできない。いま起こっているのは、彼が心配している化石燃料投資の削減によるエネルギー価格の上昇と政治的対立である。
残念ながらカーボンニュートラルによる損失は不良債権処理よりはるかに大きく、それを負担する気があるのはドイツ政府ぐらいだ。政府を梃子にしてもうけるフィンクの手法は、今度は失敗するだろう。非生産的な投資でもうけることはできないというのが、資本主義の鉄則である。