来年度の当初予算は107兆円という空前の規模になったが、いまだに「もっと財政バラマキを」という声が強い。こういう人々は「緊縮財政」を悪の代名詞のように使っているが、それは誤りである。この点をブランシャールが、去年11月に日銀で行った前川レクチャーで明快に整理している。

図のように最近の実質金利(10年物国債)は日米欧でほとんどゼロだが、これが動学的に非効率(投資の配分が効率的でない)かどうかがマクロ政策にとって重要である。長期金利をr、名目成長率をgとするとき、動学的効率性の定義は
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だが、何をrと考えるかで不等号の向きが変わる。Mankiwなどの有名な論文以来、多くの実証研究ではrを資本収益率と考えたので、ほとんどの先進国は動学的に効率的とされたが、政府債務を考えるときは、rは国債金利と考えたほうがいい。
もう一つの条件は、ゼロ金利制約があるかどうかだ。これがない場合には金融政策で総需要が調節できるが、名目金利がゼロになると金融政策がきかなくなるので、財政・金融政策の有効性について次のような3つの場合が考えられる:

図のように最近の実質金利(10年物国債)は日米欧でほとんどゼロだが、これが動学的に非効率(投資の配分が効率的でない)かどうかがマクロ政策にとって重要である。長期金利をr、名目成長率をgとするとき、動学的効率性の定義は
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だが、何をrと考えるかで不等号の向きが変わる。Mankiwなどの有名な論文以来、多くの実証研究ではrを資本収益率と考えたので、ほとんどの先進国は動学的に効率的とされたが、政府債務を考えるときは、rは国債金利と考えたほうがいい。
もう一つの条件は、ゼロ金利制約があるかどうかだ。これがない場合には金融政策で総需要が調節できるが、名目金利がゼロになると金融政策がきかなくなるので、財政・金融政策の有効性について次のような3つの場合が考えられる:
- r>g>0:動学的に効率的
- g>r>0:非効率的・低金利
- g>r=0:非効率的・ゼロ金利制約あり
2の場合はゼロ金利制約はないが、金利が低いため、調整の余地が限られる。このときは動学的に非効率で政府支出は民間投資をクラウディングアウトしないので、政府は失業を減らすために財政赤字を増やすべきだ。これがケインズの想定していた1930年代の状況に近い。
3の状況では金融政策はきかないので、財政政策が唯一の政策手段となる。財政赤字によるクラウディングアウトは起こらないが、政府債務が発散すると危険なので、総需要拡大と財政の維持可能性のトレードオフが起こる。だが日本のように財政への信頼が強い国では、ゼロ金利制約がなくなる(自然利子率がプラスになる)まで財政赤字を増やせる。
このとき自然利子率(潜在成長率に対応する)を高めるには、財政支出の社会的収益率が国債金利より高いことが必要条件である。このように私企業にはできない公共的な投資として、ブランシャールは感染症対策や気候変動対策をあげている。
こう整理すると、MMTのような「反緊縮」も、財務省のような「万年緊縮」も、理論的には正しくないことがわかる。今までは世界的に3の状況だが、これからインフレになると名目金利が上がって2の状況になる。1になると、財政バラマキは有害無益だ。プライマリーバランスより動学的効率性に配慮して財政運営を行う必要がある。
これは最適な財政政策の問題としてピーターソン研究所のサイトにまとめられ、ブランシャールの新著(ドラフト)にくわしく書かれている。
3の状況では金融政策はきかないので、財政政策が唯一の政策手段となる。財政赤字によるクラウディングアウトは起こらないが、政府債務が発散すると危険なので、総需要拡大と財政の維持可能性のトレードオフが起こる。だが日本のように財政への信頼が強い国では、ゼロ金利制約がなくなる(自然利子率がプラスになる)まで財政赤字を増やせる。
このとき自然利子率(潜在成長率に対応する)を高めるには、財政支出の社会的収益率が国債金利より高いことが必要条件である。このように私企業にはできない公共的な投資として、ブランシャールは感染症対策や気候変動対策をあげている。
こう整理すると、MMTのような「反緊縮」も、財務省のような「万年緊縮」も、理論的には正しくないことがわかる。今までは世界的に3の状況だが、これからインフレになると名目金利が上がって2の状況になる。1になると、財政バラマキは有害無益だ。プライマリーバランスより動学的効率性に配慮して財政運営を行う必要がある。
これは最適な財政政策の問題としてピーターソン研究所のサイトにまとめられ、ブランシャールの新著(ドラフト)にくわしく書かれている。