コロナ問題は医療行政を根本的に問い直している。人口あたり世界一の病床がある一方、被害は欧米の1/20なのに、なぜ「医療崩壊」などと騒がれるのか。なぜ保健所は病院に患者の受け入れを命令できないのか。厚労省は、なぜコロナを5類に落とさないのか。

その原因は簡単にいうと、役所が無能だからである。これは官僚の能力が低いという意味ではない。実は日本の役所には、民間を取り締まる法的強制力がほとんどないのだ。医療法30条では「都道府県知事は、医師の確保を特に図るべき区域の病院又は診療所における医師の確保に関し必要な協力を要請することができる」と定めているだけで、命令する権限がない。

それでもコロナのように新型インフル等感染症(1類相当)だと、感染症法38条で「特定感染症指定医療機関は、一類感染症、二類感染症及び新型インフルエンザ等感染症の患者に係る医療について、厚生労働大臣が行う指導に従わなければならない」という規定があるので、厚労省はそれに従わない病院の指定を取り消すことができる。

この指定取り消しが、行政が病院に対して行使できる唯一のペナルティである(今年初めの感染症法改正で都道府県知事が民間病院にも患者受け入れを「勧告」できるようになったが、罰則はない)。このため厚労省は1類相当の指定を残したまま、無症状や軽症の患者を入院対象からはずすなどの「弾力的運用」で実態に合わせてきた。

おかげで調整業務が保健所に集中し、それがボトルネックになって自宅療養で死者が出るようになった。厚労省は「役所の掟」に自縄自縛になっているのだが、1類相当を変えようとしない。それが政治力でまさる医師会と戦う唯一の武器だからである。

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