「脱炭素」は嘘だらけ
原子力は、かつて夢のエネルギーだった。ウラン1kgが核分裂反応で発生する熱は、石炭1kgの300万倍。自動車が馬車を駆逐したように原発が火力を駆逐するのは時間の問題だと思われたが、現実にはそうはならなかった。予想以上に安全設計のコストが上がったからだ。

技術には学習効果(ラーニングカーブ)があるが、一定の段階に達すると、本質的ではないコストが上がるネガティブ・ラーニングが起こるといわれる。火力では公害防止コスト、水力では立地コストが上がり、限界に達した。

同じようなネガティブ・ラーニングが今、再生可能エネルギーにも起こっている。太陽光や風力は、それが補完的な電源だったときは、送電網は電力会社にただ乗りしてFITで100%買い取ってもらえる楽なビジネスだったが、主力電源になるとそうは行かない。

太陽光や風力のシェアが増えると、蓄電・送電システムを維持する統合費用が大きくなる。次の図は経産省の有識者会議に提出されたRITEの資料だが、総発電量に占める太陽光の比率が50%を超えると統合費用が急激に上がり、700ドル/MWh(80円/kWh)に達する。これは現在の電力小売り価格の4倍である。

スクリーンショット 2021-06-20 180746
再エネの統合費用(RITE)

メガソーラーも風力も、森林破壊に対する反対運動や規制が制約になっている。こうして再エネのコストが上がると、FITなどの補助金でゲタをはかせても、他の電源と競争できなくなる。経験的には電源比率の20%ぐらいで限界が来るので、電源の17%になった再エネは、そろそろ限界だろう。

再エネ100%なんて不可能だし、その必要もない。アップルなどが「再エネ100%でない調達業者は排除する」というのも偽善である。雨の日も工場は稼働するのだから、これは「グリーン電力証書」のようなものを新電力から買うだけで、CO2削減にはまったく貢献しない。

日本の再エネ発電量はすでに平地面積あたり世界最大

メガソーラーはもう適地がなく、風力も傾斜地には建設できないので、日本では洋上風力しかないが、このコストは30円/kWhを超える。

かりに再エネ100%で発電できるようになったとしても、CO2排出ゼロにはならない。電力は最終エネルギー消費の26%しか供給できないからだ

供給面からみると、次の図のように水力以外の再エネの比率は8.2%で、化石エネルギーの1割である。2011年から大騒ぎして、FITで20兆円近い賦課金を投入しても、この程度なのだ。

211-3-1
1次エネルギーの構成比(経産省)

日本は平地面積あたりの再エネ発電量が、すでに世界一である。メガソーラーの年間発電量は100kWh/m2なので、日本の年間消費電力1兆kWhを再エネでまかなうには、1万km2の面積が必要だ。これは関東平野の半分をメガソーラーで埋め尽くさないといけないが、それでもカーボンニュートラルにはならない。あと80%の化石エネルギーを再エネで代替できないからだ。

スクリーンショット 2021-06-21 004256

原子力の教訓は、どんなすばらしいエネルギーも100%にはならないということである。再エネも電源比率20~30%なら補完的な電源として役に立つが、主力電源にしようとすると、システム費用が莫大になって電気代が激増し、製造業が日本から出て行く。

他方で原子力のコストは世界的にピークアウトし、今後やや下がると見込まれているので、徐々に新型原子炉で置き換えれば、電源の20%ぐらいまかなえるだろう。火力も今より減らす必要はあるが、ゼロにする必要はない。日本が世界に誇る高効率の石炭火力は守るべきだ。