今は亡きリフレ派の笑い話に、物価の岩石理論というのがある。これは「重い岩をいくら動かそうとしても動かないが、一度動き出したら止まらない。だから岩は動かさない方が良い」という議論で、原田泰氏が財政タカ派の「日銀が無茶な量的緩和をしたらハイパーインフレになる」という議論をからかったものだ。

彼は日銀がマネタリーベースを増やせば物価が徐々に上がると信じていたのだが、結果的には彼が日銀審議委員をやめるまで、日銀がマネタリーベースを4倍にしても岩石はまったく動かなかった。これでリフレ派は信用をなくしたが、岩石理論は信憑性を増したともいえる。

アメリカのインフレ率(総合CPI上昇率)は5.0%となったが、日本では4月の総合CPIはマイナス0.4%だ。その理由は単純である。これまで20年以上ずっとデフレだった日本で、物価が上がると誰も予想していないからだ。予想インフレ率の指標となるBEI(ブレークイーブンインフレ率)も0.25%前後である。日本の物価は、異様に重い岩石なのだ。

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日本の予想物価上昇率(BEI)


これを逆用したのが反緊縮派である。日本の物価は重い岩石なのだから、国債を日銀が引き受けても何も起こらない。物価がインフレ目標を超えたら、国債の発行を止めればいい、というMMTの主張がいま支持を受けるのは理解できるが、そこには見落としがある。それは岩石が動かないのはなぜかという問題である。

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