Project Sydicateが、中央銀行が気候変動を金融政策の目的にすべきかどうかという特集を組んでいる。

Daniel Grosは反対派である:中央銀行の目的は物価安定と金融システムの安定であり、気候変動はどっちにも関係がない。ESG投資と称して特定の企業の債券を買うのは、中央銀行が所得分配に介入するものだ。「市場の失敗」を補正するのは政府の役目であり、国民の負託を受けていない中央銀行がやるのは越権行為である。

Eichengreenは賛成派である:中央銀行はもう昔の中央銀行ではない。それはコロナで(よくも悪くも)政府の一部になったのだから、財政政策を回避する必要はない。金融システムの安定という観点からも、気候変動対策を怠っていると、そのうち急激な対策が必要になり、経済の安定性をそこなう。

これはNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)の見解でもある。次の図の上のように2070年ネットゼロの「秩序ある移行」をすればいいが、それを怠ると2050年以降にCCSのような不合理な技術が必要になり、「無秩序な移行」で金融システムの安定性をそこなうという。

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それによると温暖化を放置して、地球の平均気温が2100年に産業革命以後3℃上昇したら、図の下のように世界のGDPは最大で累計25%も減るというのだが、このデータは経済成長と金利を無視している。

温暖化防止のコストはそのメリットよりはるかに大きい

世界のGDPは2100年に現在の450%になるというのがIPCCの予測なので、これが現在のGDPの25%低下すると425%になる。その損失(約22兆ドル)を3%の金利で割り引くと、現在価値は80年で1/10になるので2.2兆ドル程度。パリ協定の(2℃目標の)コストは毎年1兆ドル以上だから、その3年分でコストがメリットを上回る。

つまり温暖化を減らすコストはそのメリットよりはるかに大きいのだノードハウスも割引率を3%として、次の図のように100年で3℃上昇(温暖化の損害の現在価値が防止コストに等しくなる)にとどめる対策を「最適」としている。

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中央銀行の組織が金利を無視しているのは奇妙である。その理由は気候変動が「巨大で不可逆的な損害」をもたらすという正義感によるものかもしれないが、正義感を振り回すのは中央銀行ではなく政治家の仕事である。