邪悪に堕ちたGAFA ビッグテックは素晴らしい理念と私たちを裏切った
ツイッターがトランプ大統領のアカウントを停止した事件は、世界中に反響を呼んでいる。問題が「リベラルのトランプたたき」に矮小化され、党派的な対立になっているが、この背景には本書の描いているプラットフォーム独占の問題がある。

こういう状況は、20年前にグーグルやアマゾンが登場したころは想像もできなかった。インターネットは国境を超えて世界のユーザーが情報を共有するツールで、それを規制しようとする政府からネットを守ることが正義だった。通信品位法230条はそういう時代のなごりだが、状況は大きく変わった。

今やネット企業は政府が保護すべき弱小スタートアップではなく、国家権力を脅かす存在である。昨年アメリカの独禁当局がグーグルとフェイスブックを提訴したことは潮目の変化を示すが、これは従来の独禁政策の枠組に収まらない。独占の指標として使われるのは価格の高止まりだが、プラットフォームは無料だからである。

製造業ではカネは「消費者→小売店→メーカー」と動くが、ネットでは個人情報が「ユーザー→プラットフォーム→広告主」と動き、カネはその逆方向に動く。その顧客は広告主であり、ユーザーは広告を売るための「商材」だが、グーグルはその原価をユーザーに払わない。タダで仕入れた個人情報を売るプラットフォームの収益率が高くなるのは当たり前である。

「オープン・プラットフォーム」が起業を阻害する

個人情報にそんな価値があるとは、20年前には誰も(グーグルの創業者も)想像しなかった。初期のグーグルは邪悪になるな(Don't Be Evil)というモットーを掲げ、ネットユーザーのために情報を囲い込まないで開放することを旗印にしていた。

グーグルのモットーは重要である。アメリカでは1980年代からプロパテント(知的財産権重視)の流れが強まっていたが、グーグルは情報の囲い込みは「邪悪」だとして、オープンソースのLinuxをベースにしたAndroidを開発し、多くの弁護士をやとってアンチパテントの運動を進めた。

その結果、2011年にオバマ政権の特許改正法(AIA)で特許の要件が厳格化され、取得した特許についても法廷外で異議を申し立てる制度ができた。連邦最高裁で特許無効とする判決が相次いで出され、アンチパテントの方向に転換した。

グーグルの一貫したロビイング方針は知的財産の価値を下げ、個人情報の制限をなくすことで、それを「オープン・プラットフォーム」と呼んだ。ここで価値が下がるのは特許や著作権など法的に守られている権利だけで、稀少性のない個人情報には価格がつかない。それは無料の知的財産なのだ。

これはネットユーザーには歓迎されたが、結果的には新しいスタートアップの起業を困難にした。大手プラットフォーマーが新技術をコピーしたとき、それに対して特許侵害訴訟を起こしても、大弁護団を擁する大手に勝てないからだ。多くの企業が法廷外で和解し、新技術をもつスタートアップはアジアで起業するようになった。

日本政府は2003年に個人情報保護法をつくり、5000人以上の個人情報をもつ事業者を規制対象にした。この「個人情報」には住所・氏名が含まれるので、ほとんどすべてのインターネット・ユーザーが規制対象になった。おかげで日本のネット企業は個人情報という金のなる木を奪われ、プラットフォーマーへの道を絶たれてしまった。