学術会議の「軍事研究の禁止決議」が話題になっているが、こんな決議をすること自体が、日本の科学者(正確には一部の文系学者)が科学も技術も理解していないことを示している。

人が外界を認識するとき「裸の事実」を見ることはできず、既存のパラダイムを通じて認識する。それを事実で反証することはできない。コペルニクスが地動説を提唱したのは1543年だが、ローマ教皇がそれを公式に認めたのは1992年である。

古典を暗記して既存のパラダイムを忠実に継承する弟子が出世するのが、世界共通の学問の伝統である。儒学でも四書五経の43万字を暗記することが必修で、文章はそれを引用した四六駢儷体で書くのが知識人の作法だった。この訓詁学の伝統は、学術会議の文系(特に憲法学者)にも受け継がれている。

既存のパラダイムをデータで否定する実証主義は、16世紀以降のヨーロッパだけに生まれた特異な思想である。それはヨーロッパ人が新大陸やアジアを植民地支配するようになったからだ。天動説にもとづく羅針盤では、船の正確な位置がわからず難破してしまうので、まず航海術で地動説が採用されるようになった。

ヨーロッパ以外の世界で秩序を維持する上ではキリスト教の教義は無力なので、実戦で証明された技術が世界制覇の武器だった。16世紀の軍事革命で生き残ったのは、最大の破壊力をもつ重火器の技術を開発した都市国家だった。国家の存亡を決める軍事技術が近代科学を生んだのであり、その逆ではない。

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