わが家にもマイナンバーカードがやってきた。7月8日に申請して受け取ったのが10月19日という事務処理の能率の悪さにも驚いたが、そのデザインにもあきれた。笑ってしまうのは、裏面のマイナンバーを袋で隠していることだ。これでは袋から出したら丸見えである。

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これはマイナンバーがIDかパスワードかという設計思想に迷いがあるからだが、マイナンバーはIDである。それは本人を識別する記号だから氏名と同じで、隠す必要はない。本人認証はICカードでするので、パスワードがあればいいのだ。パスワードが4種類もあるのも設計が混乱している。

しかしマイナポイントをプリペイドカードなどにチャージできるしくみはおもしろい。これでマイナンバーと銀行口座が紐づけられ、1人5000円の給付金を出すのと同じ効果がある。事務コストはいちいち申請して現金を配るよりはるかに小さいから、永江一石さんのいうように、ポイントを使えば簡単に給付金が出せる。

このポイントを期限つきにすれば、マイナス金利をつけることができる。たとえば国民全員に5万円のマイナポイントをつけ、これが5年間有効だとすると、毎年マイナス20%の金利をつけるのと同じだ。これは2008年にTyler Cowenが提案した期限つき電子マネーと同じで、貯蓄に回らないので景気対策としての効果が大きい。

電子のヘリコプターマネー

これを使って定期給付、たとえば毎月1万円のマイナポイントをつけることもできるが、定期的に現金が配布されるとインフレになるリスクがある。そこで最初は毎月1万円から始めて2万円、3万円と増やしてゆき、金利上昇やインフレが起こったら中止する。

毎月1万円のポイントがつくと年間12万円だが、1年後に支給が止まる確率が10%だと、マイナス10%の金利がつくのと同じだ。これは不安定なのでベーシックインカムとはいいがたいが、景気対策には使える。

支給を止める条件は「10年物国債金利1%またはコアCPI2%」というように明示的に決め、判断は日銀政策委員会が行う。これはフィッシャーの提案と同じヘリコプターマネーである。

マイナス金利は理論的には可能で、ロゴフなどの経済学者が提案してきたが、最大の難点は銀行が経営危機に陥ることだ。普通は中央銀行が市中銀行に現金を貸し出すので、日銀当座預金の金利がマイナスになると、銀行の預金金利をマイナスにしなければならない。

今のようにマイナス0.1%程度なら逆鞘を銀行が負担するが、これがマイナス1%ぐらいになると、預金金利をマイナスにせざるをえない。こうなると企業の大口定期預金が引き出され、取り付けが起こるおそれがある。世界的にも預金金利をマイナスにした国はない。

電子マネー(マイナポイント)による直接給付だと、そういう問題は起こらない。政府の支給する現金は銀行口座に直接振り込まれ、預金金利と無関係だからである。マイナポイントの申請はややこしいが、代行業者に頼めばいい(コンビニでもやっている)。

技術的にはプリペイドカードには多額のポイントを入れられないなどの制約があるが、大した問題ではない。「ポイントを消費に使う分だけ現金が貯蓄がされるから同じことだ」という批判もよくあるが、クーポンには消費促進効果がある。これを使えば柔軟な景気対策ができる。