本来の意味でのベーシックインカムは政治的に不可能だが、国民に最低所得を保障するという目的は他の方法でも実現できる。これは年金改革では昔から議論され、民主党は2009年のマニフェストで「7万円の最低保障年金」を公約した。

その具体案はなかったが、自民党の河野太郎、野田毅、亀井善太郎が協力し、民主党の年金担当だった岡田克也、枝野幸男、古川元久、大串博志と協議して超党派の年金改革案をまとめた。その内容は図のように全国民に毎月7万円の「基礎年金」を支給し、それに加えて所得比例の「積立保険料比例年金」を支給するものだ。

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河野氏の説明では、基礎年金の財源は消費税とし、所得比例の部分は本人負担の積立方式とする。これだと現行の賦課方式との二重の負担が生じるが、積立保険料を国債で立て替え、50年で償還する。高額所得者については基礎年金を減額する(クローバック)。

この案は国民年金をBIのような税方式の定額給付とし、それ以外は自己負担の年金保険にするものだが、巨額の税負担と所得移転が発生するため、弱体な民主党政権では具体化できなかった。2012年に「社会保障と税の一体改革」で実現したのは消費税の10%への増税などの財源確保だけで、積立方式は議論にもならなかった。

「二重の負担」という難問

これは65歳以上の年金受給者だけを対象にしているのでBIとは違うが、基本的な考え方は同じである。今の年金でも基礎年金の半分は国庫負担なので、それを100%にするだけだ。毎月7万円を4000万人に支給すると33兆円。消費税率を25%にすれば足りる。国民年金保険料を賃金税と名を変えて残す手もある。

2階部分はすべて自己負担とし、積み立てた保険料とその運用分だけを受け取ることになる。企業の確定拠出年金と同じしくみだが、現在の厚生年金でこれまで払った年金保険料はまったく返ってこない。

賦課方式では現在の年金受給者は現在の被保険者の払う保険料から年金を受け取るが、それがゼロになるので、年金をもらうためには新たに積み立てなければならない。最大の問題は、この二重の負担である。

日本のような超高齢社会では賦課方式より積立方式のほうが公平だということはわかっているのだが、この問題があるために積立方式への移行は政治的に不可能である。

2009年の年金改革案では、現在の年金受給額と積み立てた保険金の差額を国が補填することになっているが、厚労省の計算ではこの負担が総額550兆円。これも政治的に不可能な額だが、今でも賦課方式の「隠れ債務」(将来の年金国庫負担)は少なくとも800兆円なので、それより少ない。

これを今後50年にわたって国が立て替え、その財源を50年物国債でまかなうというのが河野氏などの案で、ニコ生アゴラでも紹介したが、当時は財務省が反対して葬られたが、毎年10兆円ぐらいなら、マイナス金利の現状では出せるだろう。

しかし今まで払った年金保険料をパーにするのは、政治的には不可能だ。特に厚生年金の保険料には財産権があるので、それを政府が清算することは法的に大きな問題がある。マクロ的には政府が補填するとしても、個人によって損得が大きく異なるので、行政訴訟を起こされたら政府が負けるかもしれない。

このようにできない理由は簡単にみつかるが、今の不公平な年金制度とどっちがましかは明らかだ。これを政治的に不可能だと思考停止するのではなく、少しでもましな制度にする上でBIはベンチマークになる。