日本では情報弱者が消費税をきらうが、世界的にはゆがみの多い所得税をキャッシュフロー課税に変えるべきだというのが専門家のコンセンサスだ。法人所得税の廃止にはフェルドシュタインからクルーグマンまで賛成しているが、労働所得税をどうするかはむずかしい。

所得分配の不平等は、VATのような一律の消費税では是正できない。日本では60歳以上の高齢者が金融資産の60%をもっているため、フローの所得だけに課税しても資産格差は是正できない。資産課税を強化すると、海外への資産逃避が増えて税収が上がらない。

これを是正する一つの方法が、ロゴフコクランフランクなどが提案している累進消費税である。これは原理的には単純だ:今の消費税はすべての取引に同じ税率がかかるが、これを累進的にする。たくさん消費する人には高い税率をかけるのだ。

たとえば年間消費額100万円までは消費税率ゼロ、200万円まで10%、それ以上は100万円ごとに税率が1%上がるとすると、消費額が300万円だと税率は11%で33万円、400万円だと12%で48万円…というように累進的になる。

消費額をどうチェックするか

問題はそれを税制としてどう実装するかだ。フランクの提案は、貯蓄額を申告させて所得との差額を消費として課税対象にするというものだが、これだと今の所得税と同じように所得を隠すインセンティブが働く。

それを防ぐために消費額を証明する領収書を提出させると、過少申告が起こる。これに対するコクランの対策は、あらかじめ最高税額を徴収し、消費額に応じて還付するものだ。たとえば最高消費税率を30%とし、所得300万円の人には90万円課税し、200万円分の領収書を提出したら(税額20万円との差額)70万円を還付する。

これで領収書は提出されるが、それをクロスチェックするのにVATのインボイスと同じしくみを使う。売り手が売り上げを申告し、税務署はそれを申告消費額と照合するのだ。これは紙の領収書だと事務量が膨大になるが、すべての取引がクレジットカードなどで電子化されていれば機械的にできるので、電子的な申告は税率を下げる。

ただ日本では高所得者の消費性向が下がり、貯蓄過剰がさらに悪化するおそれがある。この対策としては、課税最低限以下の低所得者には消費税を一律に還付する負の消費税も考えられる。これはベーシックインカムと同じで、低所得者の消費が増える効果で高所得者の消費が減る効果を相殺できる。

貯蓄過剰の対策としては預金課税(マイナス金利)も考えられる。税技術的にはいろいろむずかしい点があるが、今の穴だらけの所得税よりましだろう。