イギリスのボリス・ジョンソン首相は集団免疫戦略を撤回したが、その根拠となったインペリアル・カレッジの報告書には重大な疑問がある、とオクスフォード大学の8人の研究者が指摘している。

インペリアル・カレッジの報告書は、これからイギリスで国民の81%が感染し、25万人が死亡すると予測して大きな反響を呼んだ。これはイギリスで死者が初めて出た3月から新型コロナの感染が始まったと想定しているが、これはおかしい。感染の開始から死者が出るまでには、タイムラグがあるからだ。

この論文では1月下旬に新型コロナウイルスがイギリスに入ったと想定して、感染の拡大をSIRモデルと呼ばれる疫学モデルでシミュレーションした結果、図のように、すでにイギリス国民の半分以上が免疫をもっている可能性がある、というインペリアル・カレッジとは対照的な結論が出た。

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基本再生産数R0=2.25で致死率0.1%とすると、図の黄色のカーブのように2月末から免疫をもつ人が増え、3月19日の段階では68%が免疫をもっている。R0=2.75で致死率1%とすると、30%ぐらいが免疫をもっていることになる。

このモデルとインペリアル・カレッジの結論が大きく違う最大の原因は、新型コロナウイルスがイギリスに入った時期の違いである。 死者は3月初めから出ているが、普通は感染が始まってから死者が出るまでに少なくとも1ヶ月かかるというのが、この論文の重要な指摘である。イギリスに上陸したのは遅くとも1月末だろう。

この推定が正しいとすると、日本で最初の死者が出たのは2月中旬なので、潜伏期間が2週間あることも考えると、新型コロナウイルスは昨年12月末までには日本国内に入ったと考えられる。日本でもイギリスと同じペースで感染が広がったとすると、すでに60%以上の国民が免疫をもっている可能性がある。

R0=2.25とすると、感染率55%でピークアウトする。日本で新規患者数や新規死者数が減っている原因は、感染の開始から3ヶ月以上たって集団免疫ができているためだと考えると、国民性や生活習慣の違いなどを考えなくても説明できる。これは日本だけでなく、インドやタイやマレーシアなど、中国人の多いアジアで感染が少ない原因も説明できる。

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