非常にややこしい話だが、新型コロナの問題を理解する上で重要なので説明しておく。専門家会議の資料は日本の実効再生産数Rが1を下回ったという驚くべき事実を明らかにしたが、後半ではトーンが変わっている。
この資料の9ページにある西浦博氏のシミュレーションによれば、減っている感染が局地的な「オーバーシュート」で反転する可能性があるという。

基本再生産数Ro=2.5の場合の重篤患者数(専門家会議の資料より)
このシミュレーションによると、図のようにオーバーシュートが始まってから60日後に65歳以上の重篤患者は10万人あたり60人を超え、人工呼吸器の数の10倍を超えるという。ここまでR<1になったというデータで議論しているのに、ここで初めてRoという概念が出てくる。
Ro=2.5になる根拠は書いてないが、これはWHOの想定する1.4~2.5の上限である。このRとRoの関係が書いてないので、普通の人は「一時的には感染が下火になったが、また反転する」と解釈するだろうが、そうではないのだ。
実際の感染拡大を決めるのはRで、それが1になったとき感染拡大は止まる。Rは予防接種の効果を考えるときの変数で、予防接種で免疫を獲得した人の比率をHとすると、
R=Ro(1-H)=1
となるとき集団免疫が成立する。このHが集団免疫率だが、コロナには予防接種がきかないので、Hを感受性をもたない人の「鈍感率」と考えよう。Hが日本人に固有の遺伝的な特性だとすると急に上がることは考えられないが、生活習慣の違いだとすると上がる可能性もある。
西浦氏は北海道で0.7になったRが、その3倍以上になると想定している。その理由は不明だが、コロナの「本当の感染力」は2.5で、今の1以下というRは一時的に自粛で下がっただけだと考えているのだろう。たとえば北海道で緊急事態宣言が終わると人々の接触が再開されて局地的にHが上がり、Rが少しRoに近づくことは考えられる。
だが全国でRが3倍に激増することはありえない(予防接種のない場合はR≒Roと考えるのが普通だ)。つまりRo=2.5という想定は日本では過大評価であり、その実態はRに近い(たかだか1~1.4程度)と思われる。終息し始めたコロナの感染が、オーバーシュートして大きく上がることは考えにくい。
H=1-1/Ro=0.6
つまり7560万人が感染することになる。このうち症状の出るのは20%、患者のうち重症になるのが5%という厚労省のデータで計算すると、約75万人が人工呼吸器を必要とすることになる。これは日本の人工呼吸器2万台をはるかに上回るので医療が崩壊し、多くの死者が出るだろう。致死率0.5%としても、30万人以上が死亡することになる。
これが西浦氏のシミュレーションである。今の日本のきわめて低いRが日本人の特殊な生活習慣やクラスター追跡などのきめ細かい医療によるものだとすれば、その警戒をゆるめた途端に「世界標準」に戻ることも考えられる。
Roの定義は専門家でもまちまちで、Roを純然たる生物学的な定数と考える人もいれば、Rと同じ意味で使う人もいる。後者のほうが普通だが、そういう人々にとっては、Rがこれから2.5倍に上昇してRoに近づくという想定は不自然だろう。
もちろん最悪の場合を想定することは必要だが、それに従って行動するかどうかは別だ。日本のRoが1に近いとすれば、自粛を解除してもそれほど大きくRが上がることはないだろうが、Roが2.5に近いとすれば、イギリスのような集団免疫戦略も選択肢になろう。
この資料の9ページにある西浦博氏のシミュレーションによれば、減っている感染が局地的な「オーバーシュート」で反転する可能性があるという。
基本再生産数(Ro:すべての者が感受性を有する集団において1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)が欧州(ドイツ並み)のRo=2.5 程度であるとすると、症状の出ない人や軽症の人を含めて、流行 50 日目には 1 日の新規感染者数が 5,414 人にのぼり、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられます。

基本再生産数Ro=2.5の場合の重篤患者数(専門家会議の資料より)
このシミュレーションによると、図のようにオーバーシュートが始まってから60日後に65歳以上の重篤患者は10万人あたり60人を超え、人工呼吸器の数の10倍を超えるという。ここまでR<1になったというデータで議論しているのに、ここで初めてRoという概念が出てくる。
Ro=2.5になる根拠は書いてないが、これはWHOの想定する1.4~2.5の上限である。このRとRoの関係が書いてないので、普通の人は「一時的には感染が下火になったが、また反転する」と解釈するだろうが、そうではないのだ。
実際の感染拡大を決めるのはRで、それが1になったとき感染拡大は止まる。Rは予防接種の効果を考えるときの変数で、予防接種で免疫を獲得した人の比率をHとすると、
R=Ro(1-H)=1
となるとき集団免疫が成立する。このHが集団免疫率だが、コロナには予防接種がきかないので、Hを感受性をもたない人の「鈍感率」と考えよう。Hが日本人に固有の遺伝的な特性だとすると急に上がることは考えられないが、生活習慣の違いだとすると上がる可能性もある。
西浦氏は北海道で0.7になったRが、その3倍以上になると想定している。その理由は不明だが、コロナの「本当の感染力」は2.5で、今の1以下というRは一時的に自粛で下がっただけだと考えているのだろう。たとえば北海道で緊急事態宣言が終わると人々の接触が再開されて局地的にHが上がり、Rが少しRoに近づくことは考えられる。
だが全国でRが3倍に激増することはありえない(予防接種のない場合はR≒Roと考えるのが普通だ)。つまりRo=2.5という想定は日本では過大評価であり、その実態はRに近い(たかだか1~1.4程度)と思われる。終息し始めたコロナの感染が、オーバーシュートして大きく上がることは考えにくい。
自粛は解除しても大丈夫か
かりに日本でも本来のRoは2.5だとすると、上の式から日本の集団免疫率HはH=1-1/Ro=0.6
つまり7560万人が感染することになる。このうち症状の出るのは20%、患者のうち重症になるのが5%という厚労省のデータで計算すると、約75万人が人工呼吸器を必要とすることになる。これは日本の人工呼吸器2万台をはるかに上回るので医療が崩壊し、多くの死者が出るだろう。致死率0.5%としても、30万人以上が死亡することになる。
これが西浦氏のシミュレーションである。今の日本のきわめて低いRが日本人の特殊な生活習慣やクラスター追跡などのきめ細かい医療によるものだとすれば、その警戒をゆるめた途端に「世界標準」に戻ることも考えられる。
Roの定義は専門家でもまちまちで、Roを純然たる生物学的な定数と考える人もいれば、Rと同じ意味で使う人もいる。後者のほうが普通だが、そういう人々にとっては、Rがこれから2.5倍に上昇してRoに近づくという想定は不自然だろう。
もちろん最悪の場合を想定することは必要だが、それに従って行動するかどうかは別だ。日本のRoが1に近いとすれば、自粛を解除してもそれほど大きくRが上がることはないだろうが、Roが2.5に近いとすれば、イギリスのような集団免疫戦略も選択肢になろう。