地球温暖化 「CO2犯人説」は世紀の大ウソ
最近は「温暖化懐疑派」を悪の代名詞のように使う人がいるが、科学に懐疑は必要である。特にIPCCのシミュレーションには不確実性が大きく、科学的な疑問も多い。本書はそれを批判する専門家の論文集で、中身はまじめなのだが、きわもの的なタイトルでぶち壊しだ。

丸山茂徳氏が強調するのは「地球の平均気温は1945年ごろから1975年ごろにかけてやや下がった」という事実だが、これはIPCCも認め、第5次評価報告書で「戦後の工業化で大気汚染によるエアロゾルが増えた結果だ」と説明している。次の表で寒冷化をもたらした「他の人為起源強制力」の最大の要因が大気汚染である。

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丸山氏が温暖化の原因だと主張するのは宇宙線による雲の影響だが、これは最近のデータでは逆相関になっている。ただ戎崎俊一氏が指摘するように、雲の寒冷化効果はCO2の温室効果の5倍なので、雲を減らす要因があれば温暖化を説明できる可能性はある。こういう点でIPCCのデータはまだ不十分である。

自然の寒冷化が人為的温暖化を打ち消す?

IPCCのもう一つの弱点は、長期の気候変動が説明できないことだ。次の図のようにCO2濃度と長期の平均気温の相関は弱く、特に中世温暖期を説明できない。この点では宇宙線の強さ(つまり雲の量)との相関のほうが強く、長期的には太陽活動が影響している可能性がある。

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アルプスの気温(赤)と宇宙線の強さ(逆スケール)

人為的要因と自然要因を排他的にとらえる必要はなく、19世紀までは自然要因で気温が変動したが、最近は人為的要因の比重が高まっていると考えれば、それなりに説明がつく。丸山氏のようにCO2を「大ウソ」と断定し、「これから小氷河期が来る」という主張には科学的根拠がない。

ただ次の図のように、宇宙線の強さと低層雲の量には相関がある。1985年以降は宇宙線が弱まり、雲が減って温暖化したとすると、その傾向が逆転した1990年代後半には寒冷化するはずだが、温暖化は続いた。

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宇宙線の強さ(赤)と低層雲の量(CERN)

これは宇宙線の影響が、CO2の影響を打ち消すほど強くないことを示している。IPCCは宇宙線の影響については明確な判断をしていないが、このような自然の影響が人為的なCO2の影響と相殺されるとすれば、気温が加速度的に上昇することは考えられない。

本書には有馬純氏の「環境原理主義」批判など、もっともな議論もあるのだが、人為的温暖化説を「世紀の大ウソ」と断定するには、肝心の科学的データが弱すぎる。原理主義に対する懐疑派の批判は必要だが、もっと慎重に議論を進めるべきだ。