17日に発表された内閣府の経済見通しでは、プライマリーバランス(PB)の黒字化は2年ずれ込んで2027年になったが、政府債務のGDP比は図のように減っている。これは過去に発行した国債をゼロ金利の国債で借り替えたからで、名目成長率3%台の「成長実現ケース」では157%まで下がる。1%台の「ベースラインケース」でもほぼ横ばいだ。
PB黒字化は政府債務が発散しないための条件なので、それを自己目的化する必要はない。ゼロ金利では財政赤字を拡大する余地があるが、問題は何に使うかである。ゼロ金利が永遠に続くなら、激増する社会保障費に使うことが合理的だが、こういう長期支出は将来金利が上がったとき、減らすわけには行かない。むしろ非裁量的なバラマキが望ましいのだ。
それがヘリコプターマネーである。これは中央銀行が市中銀行から国債を買う「財政ファイナンス」と同義と考えられているが、本来のヘリマネは銀行を通さないで国民にばらまくものだ。ブランシャールは、中央銀行が直接、国民の銀行口座に入金する国民の量的緩和を推奨している。これは銀行を通さない「ヘリマネ型の量的緩和」ともいえよう。
Muellbauerが最初に提案したのは「ECBが域内の全員の銀行口座に500ユーロ入金する」という量的緩和の変種である。ゼロ金利になると、中央銀行がいくら銀行にマネタリーベースを供給しても、銀行の中銀当座預金に「ブタ積み」になってしまう。それなら中銀が直接、個人にばらまけばいいのだ。
もちろんこれは思考実験で、ブランシャールも指摘するように財政ルールのきびしいEUでは不可能だが、日本では不可能ではない。たとえば日銀が量的緩和で銀行に供給した現金のうち、顧客ひとり10万円を銀行がその口座に入金する。名寄せはマイナンバーでやればいい。
そのコストは日本全体で12兆円になるが、これは一般会計に計上して国債を発行し、日銀がそれを買い取る。これは財政ファイナンスと同じだが、12兆円は確実に市中に出て行く。
理論的には、これはそれほどナンセンスな話ではない。Woodfordも認めるように、すべての国民が合理的なら量的緩和とヘリマネは同じだが、心理的な効果はヘリマネのほうが大きい。大事なのは、市中に出たマネタリーベースが回収されないことだ。量的緩和には「出口」があるかもしれないが、ヘリマネなら人々はそう信じないだろう。
ただし効果が大きいということは、インフレ予想に与える影響も大きいということだ。「すべての国民に10万円配る」 と日銀がアナウンスした途端に、激しいインフレが起こるかもしれない。それが心配なら、最初は1万円ぐらいから始めて徐々に増やしてもいい。
一律のバラマキは所得分配を平等にする効果があり、いわばベーシックインカムの小型版である。インフレなどの悪影響が出たら、ただちにやめることもできる。問題は日銀の独立性を侵害することだが、これも最近、黒田総裁の強調する「財政と金融の協調」という点では悪くないのではないか。
PB黒字化は政府債務が発散しないための条件なので、それを自己目的化する必要はない。ゼロ金利では財政赤字を拡大する余地があるが、問題は何に使うかである。ゼロ金利が永遠に続くなら、激増する社会保障費に使うことが合理的だが、こういう長期支出は将来金利が上がったとき、減らすわけには行かない。むしろ非裁量的なバラマキが望ましいのだ。
それがヘリコプターマネーである。これは中央銀行が市中銀行から国債を買う「財政ファイナンス」と同義と考えられているが、本来のヘリマネは銀行を通さないで国民にばらまくものだ。ブランシャールは、中央銀行が直接、国民の銀行口座に入金する国民の量的緩和を推奨している。これは銀行を通さない「ヘリマネ型の量的緩和」ともいえよう。
ヘリマネによる財政と金融の協調
Quantitative Easing for the Peopleというのはイギリス労働党のコービン党首のスローガンだが、これは公共投資の財源をイングランド銀行が直接ファイナンスするというのものだった。Muellbauerが最初に提案したのは「ECBが域内の全員の銀行口座に500ユーロ入金する」という量的緩和の変種である。ゼロ金利になると、中央銀行がいくら銀行にマネタリーベースを供給しても、銀行の中銀当座預金に「ブタ積み」になってしまう。それなら中銀が直接、個人にばらまけばいいのだ。
もちろんこれは思考実験で、ブランシャールも指摘するように財政ルールのきびしいEUでは不可能だが、日本では不可能ではない。たとえば日銀が量的緩和で銀行に供給した現金のうち、顧客ひとり10万円を銀行がその口座に入金する。名寄せはマイナンバーでやればいい。
そのコストは日本全体で12兆円になるが、これは一般会計に計上して国債を発行し、日銀がそれを買い取る。これは財政ファイナンスと同じだが、12兆円は確実に市中に出て行く。
理論的には、これはそれほどナンセンスな話ではない。Woodfordも認めるように、すべての国民が合理的なら量的緩和とヘリマネは同じだが、心理的な効果はヘリマネのほうが大きい。大事なのは、市中に出たマネタリーベースが回収されないことだ。量的緩和には「出口」があるかもしれないが、ヘリマネなら人々はそう信じないだろう。
ただし効果が大きいということは、インフレ予想に与える影響も大きいということだ。「すべての国民に10万円配る」 と日銀がアナウンスした途端に、激しいインフレが起こるかもしれない。それが心配なら、最初は1万円ぐらいから始めて徐々に増やしてもいい。
一律のバラマキは所得分配を平等にする効果があり、いわばベーシックインカムの小型版である。インフレなどの悪影響が出たら、ただちにやめることもできる。問題は日銀の独立性を侵害することだが、これも最近、黒田総裁の強調する「財政と金融の協調」という点では悪くないのではないか。