懸案の年金財政検証が出たが、野党は批判しない。批判すると、今より年金を減らせという話にしかならないからだ。マクロ経済スライドはほとんど実施されていないため、今の年金は大幅な過剰給付になっている。今のままだと積立金は2030年代に枯渇し、年金は完全な賦課方式になるだろう。
そうなると年金を一般会計とは別の特別会計で管理する理由はない。賦課方式の年金は国債と同じ将来世代からの借金だから、社会保障支出はすべて一般会計に計上し、一元管理すべきだ。そうすると当初予算の半分以上が社会保障費になり、「財政とは社会保障である」ということが可視化されるだろう。
年金純債務は今でも1300兆円あり、これを将来世代が負担すると大幅な増税(あるいは社会保険料の増額)が必要なので、年金は世代間のゼロサムゲームになるが、政治的にはもっと楽な方法がある。年金会計の赤字を国債で埋めるのだ。それを社会保障国債と名づけ、建設国債のように財政法で認めれば、合法的に財政赤字が増やせる。
オフバランスの年金債務を一般会計に計上すると、政府債務は2500兆円を超えるが、債務残高そのものは大した問題ではない。マイナス金利が今後もずっと続くとすると、借り換えで借金が減るのでネズミ講が可能になり、将来世代も利益を得る。しかし金利が上がって国債が暴落すると、金融危機が起こるだろう。つまり年金財政はゼロサムゲームではないのだ。
長期金利とマクロ経済スライドの連動
短期的にはゼロ以下の金利が続くだろうが、年金のように今後100年のスパンを考えると、ゼロ金利がずっと続くという想定は現実的ではない。日本の政府債務をすべて増税で返済することはできないので、このまま年金給付が増えて現役世代の負担が大きくなると、どこかで金利が急上昇する可能性がある。そのリスクは政府債務の額ではなく、政府が信頼されているかどうかに依存する。日本政府は過剰に信頼されているので、少しぐらい政府債務が増えても何も起こらないだろう、というのがシムズの予想である。しかし財政赤字を永遠に先送りすることは危険なので、ゆるやかなインフレで実質債務を減らすべきだ、というのが彼の提案だ。
それに対して、自然利子率がマイナスの状態は50年以上続く、というのがサマーズやブランシャールの予想だ。これが正しいとすると、年金を次世代に先送りするネズミ講で現在世代も将来世代も利益を得る。どっちに転ぶかはわからないが、ネズミ講がまったく不可能だと想定するのも非現実的だろう。
金利がマイナスになっている限り社会保障支出は増やしてもかまわないが、上がってきた場合は抑制しなければならない。これを弾力的に行うことはむずかしいが、マクロ経済スライドの運用で連動させることはできる。たとえば「長期金利がプラスになったら名目下限措置は撤廃する」というルールを設けるのだ。
金融政策のきかなくなった今は、好むと好まざるとにかかわらず、中央銀行が政府に従属する「財政支配」の時代になるので、統合政府の債務(国債+マネタリーベース)をコントロールするルールが必要だ。今後の歳出増は社会保障に限り、金利が上がったら年金支給額を抑制するというルールは、政治的にも現実性があるのではないか。


