今度の参議院選挙の最大の争点は年金問題だが、公約で「マクロ経済スライド廃止」という方針を明確に打ち出している共産党以外は、どう改革するのか(あるいはしないのか)わからない。自民党に至っては、金融審議会の「年金が2000万円足りない」という報告書の受け取りを拒否して、事実も認めない。
その一つの原因は、今の公的年金の負担感が少ないためだろう。国民年金は税で補填されるので年金保険料より給付のほうが多いが、厚生年金にはトリックがある。その保険料は2017年に18.3%で打ち止めになったが、サラリーマンの源泉徴収票に出てくる数字はその半分、つまり9.15%である。
ところがサラリーマンの実際の負担はそれより大きい。次の図は鈴木亘氏の試算だが、ざっくり言って今の50歳以下は年金の払い損になる。これは保険料というより賃金税と考えたほうがいいが、その負担感は実際より小さい。
ただ現実には、事業主負担が賃金にすべて転嫁されるわけではない。実証研究をまとめた太田聡一氏がいうように「部分的に転嫁される」というのが実態だろうが、労働者は転嫁されるという事実も知らない。
このように痛税感の小さい賃金税は政治的な抵抗が少ないので、取りやすい所から取ることになり、負担が片寄りやすい。実感としての社会保険料は所得税(給与所得の5~10%)とあまり変わらないが、実質的な負担は所得税と消費税の合計より大きい。
それは保険料だということになっているので負担感も小さいが、実際には上の図のように将来世代ほど大幅な負担超過になる。このように痛税感を最小化する税制は、政治的には賢いともいえる。
その観点から考えると、政治的に抵抗の強い消費税を10%超に上げることは困難だろう。域内移動の多いEUでは所得税や法人税が高いと租税逃避が起こりやすいので、直接税を下げて消費地で課税するVATの比重が大きくなり、今ではEUでは20%以上が普通だ。それに対して日本では、国民負担のほぼ半分が社会保険と財政赤字という痛税感の低い構造になっている。
逆に痛税感を最小化するという観点から考えると、所得税より社会保険料のほうが見えにくく、それより負担感ゼロの法人税のほうが見えにくい。共産党が「年金を減らさないで大企業から法人税をもっと取れ」というのは、この観点からみると正しい。
しかし法人税を上げると製造業は日本から出て行き、生産拠点だけでなく本社機能も海外に移転するだろう。日本から雇用が失われ、ローカルなサービス業だけが残り、長期停滞はますます深刻化するだろう。長期的には、ほとんどの法人税を負担するのは労働者なのだ。
だから痛税感の小さい社会保険料を増やすことは、長期的には賢明とはいえない。痛税感のまったくない財政赤字で社会保障の赤字を調節することもありうるが、そのためには社会保障の負担を長期的に調節する独立行政委員会が必要だろう。
その一つの原因は、今の公的年金の負担感が少ないためだろう。国民年金は税で補填されるので年金保険料より給付のほうが多いが、厚生年金にはトリックがある。その保険料は2017年に18.3%で打ち止めになったが、サラリーマンの源泉徴収票に出てくる数字はその半分、つまり9.15%である。
ところがサラリーマンの実際の負担はそれより大きい。次の図は鈴木亘氏の試算だが、ざっくり言って今の50歳以下は年金の払い損になる。これは保険料というより賃金税と考えたほうがいいが、その負担感は実際より小さい。
「痛税感」を最小化する日本の税制
この手品のタネは単純だ。社会保険料の半分を事業主負担としてサラリーマンを雇う会社が負担しているからである。しかし会社からみると事業主負担も人件費なので、そのほとんどは労働者に転嫁される。つまり社会保険料の分だけ手取り賃金が下がるのだが、その負担の半分は見えない。ただ現実には、事業主負担が賃金にすべて転嫁されるわけではない。実証研究をまとめた太田聡一氏がいうように「部分的に転嫁される」というのが実態だろうが、労働者は転嫁されるという事実も知らない。
このように痛税感の小さい賃金税は政治的な抵抗が少ないので、取りやすい所から取ることになり、負担が片寄りやすい。実感としての社会保険料は所得税(給与所得の5~10%)とあまり変わらないが、実質的な負担は所得税と消費税の合計より大きい。
それは保険料だということになっているので負担感も小さいが、実際には上の図のように将来世代ほど大幅な負担超過になる。このように痛税感を最小化する税制は、政治的には賢いともいえる。
その観点から考えると、政治的に抵抗の強い消費税を10%超に上げることは困難だろう。域内移動の多いEUでは所得税や法人税が高いと租税逃避が起こりやすいので、直接税を下げて消費地で課税するVATの比重が大きくなり、今ではEUでは20%以上が普通だ。それに対して日本では、国民負担のほぼ半分が社会保険と財政赤字という痛税感の低い構造になっている。
逆に痛税感を最小化するという観点から考えると、所得税より社会保険料のほうが見えにくく、それより負担感ゼロの法人税のほうが見えにくい。共産党が「年金を減らさないで大企業から法人税をもっと取れ」というのは、この観点からみると正しい。
しかし法人税を上げると製造業は日本から出て行き、生産拠点だけでなく本社機能も海外に移転するだろう。日本から雇用が失われ、ローカルなサービス業だけが残り、長期停滞はますます深刻化するだろう。長期的には、ほとんどの法人税を負担するのは労働者なのだ。
だから痛税感の小さい社会保険料を増やすことは、長期的には賢明とはいえない。痛税感のまったくない財政赤字で社会保障の赤字を調節することもありうるが、そのためには社会保障の負担を長期的に調節する独立行政委員会が必要だろう。