1980年代にPCが登場したときは「コンピュータが小さくなるだけだろ」といわれ、90年代にインターネットが登場したときは「電子メールができるだけだろ」といわれた。それによって社会が変わると思った人は少なかった。人工知能(AI)は今、同じような状況にあるが、これによって社会を変える大変革は起こるだろうか。
私は起こらないと思う。なぜなら、すでにITで変化は起こったからだ。いまAIと呼ばれているものは「機械学習」であり、それほど画期的な技術革新ではない。画像認識や音声認識などのインターフェイスはよくなり、日常言語で命令したら動くロボットもできるだろうが、それは今のITの延長上であり、質的に違うことが起こるわけではない。
しかし長期的には、ITは社会を大きく変えるだろう。すでに工場は自動化され、外食ではタッチパネルで注文できるようになった。こういう変化が、あらゆる分野で起こるだろう。労働市場が機能していれば雇用が絶対的に失われることはないが、労働の質は変わるだろう。ホワイトカラーは減り、医療・介護・外食などの対人サービス業が増える。雇用は非正規化し、格差は拡大するだろう。
この意味で変化は1990年代に始まったのであり、それが長期停滞の本質である。アメリカはITによるグローバル化の中で「頭脳」に特化して一部の企業が高い収益を上げ、中国は「製造」に特化して成長したが、どっちにもなれなかった日本は没落するしかない。
経済学の教科書で学ぶ収穫逓減は、ボトルネックになる生産要素があるから起こるので、すべてソフトウェアになるとボトルネックがなくなり、最適規模が無限大になる収穫逓増が起こり、GAFAのような超巨大企業の独占が拡大する。これも今はじまった現象ではなく、2000年代から起こっていた。
今後も「ムーアの法則」のような指数関数的なハードウェアの進歩は広い意味で続くので、ソフトウェアも複雑化し、コストは下がるだろう。しかしそのプレイヤーはほとんど変わらない。グローバルな大企業になったのは、2004年に創業したフェイスブックが最後だ。グーグルもマイクロソフトも、今や買収した数百の企業の集合体である。
日本でもサービス業は残るので、雇用がなくなることはないが、グローバルな大企業とローカルな中小企業の格差は拡大し、付加価値の高いエリートと、新興国と競争する単純労働者の格差も拡大する。それはグローバル資本主義に内在する傾向をITが促進しただけだ。
こういう格差をどうすべきだろうか。本書はベーシック・インカムなどの所得再分配を提唱するが、BIかどうかは別にして、これしかないだろう。グローバル化を政府が止めることはできない。日本では公取委がアマゾンに立ち入り調査をしたりしているが、そんなことをしても日本からグローバル企業は生まれない。
本書は新しい技術をネタにしているが、中身は教科書的な経済学のおさらいであり、本質的に新しいことが書いてあるわけではない。
私は起こらないと思う。なぜなら、すでにITで変化は起こったからだ。いまAIと呼ばれているものは「機械学習」であり、それほど画期的な技術革新ではない。画像認識や音声認識などのインターフェイスはよくなり、日常言語で命令したら動くロボットもできるだろうが、それは今のITの延長上であり、質的に違うことが起こるわけではない。
しかし長期的には、ITは社会を大きく変えるだろう。すでに工場は自動化され、外食ではタッチパネルで注文できるようになった。こういう変化が、あらゆる分野で起こるだろう。労働市場が機能していれば雇用が絶対的に失われることはないが、労働の質は変わるだろう。ホワイトカラーは減り、医療・介護・外食などの対人サービス業が増える。雇用は非正規化し、格差は拡大するだろう。
この意味で変化は1990年代に始まったのであり、それが長期停滞の本質である。アメリカはITによるグローバル化の中で「頭脳」に特化して一部の企業が高い収益を上げ、中国は「製造」に特化して成長したが、どっちにもなれなかった日本は没落するしかない。
機械化とグローバル化で格差は拡大する
タイトルになっている「純粋機械化」というのは、生産要素の中で労働の占める比率が小さくなり、規模の経済がグローバルに拡大するという当たり前の話だ。労働投入が純粋にゼロになることはありえないが、IT産業ではその比率が限りなく小さくなり、限界費用が増えないのだ。経済学の教科書で学ぶ収穫逓減は、ボトルネックになる生産要素があるから起こるので、すべてソフトウェアになるとボトルネックがなくなり、最適規模が無限大になる収穫逓増が起こり、GAFAのような超巨大企業の独占が拡大する。これも今はじまった現象ではなく、2000年代から起こっていた。
今後も「ムーアの法則」のような指数関数的なハードウェアの進歩は広い意味で続くので、ソフトウェアも複雑化し、コストは下がるだろう。しかしそのプレイヤーはほとんど変わらない。グローバルな大企業になったのは、2004年に創業したフェイスブックが最後だ。グーグルもマイクロソフトも、今や買収した数百の企業の集合体である。
日本でもサービス業は残るので、雇用がなくなることはないが、グローバルな大企業とローカルな中小企業の格差は拡大し、付加価値の高いエリートと、新興国と競争する単純労働者の格差も拡大する。それはグローバル資本主義に内在する傾向をITが促進しただけだ。
こういう格差をどうすべきだろうか。本書はベーシック・インカムなどの所得再分配を提唱するが、BIかどうかは別にして、これしかないだろう。グローバル化を政府が止めることはできない。日本では公取委がアマゾンに立ち入り調査をしたりしているが、そんなことをしても日本からグローバル企業は生まれない。
本書は新しい技術をネタにしているが、中身は教科書的な経済学のおさらいであり、本質的に新しいことが書いてあるわけではない。