20世紀の歴史に最大の影響を与えた経済理論はケインズの『一般理論』だが、それに次いで大きな影響を与えたのは、1968年のフリードマンの論文「金融政策の役割」だった。それは自然失業率の概念で、ケインズ以来の裁量的な財政政策を否定した。
これはその後も長く論争になったが、最終的にはフリードマンが勝った。彼の政策はサッチャーやレーガンの政権で実行され、歴史を変えたのだ。中央銀行を政府から独立させて非裁量的な目標でコントロールする制度が1990年代に確立し、「景気循環は終わった」ともいわれた。
しかし2008年の金融危機がそういう世界を変えた。世界は長期停滞に入り、ゼロ金利で金融政策は有効性を失った。最近のマクロ経済学をみると、フリードマン革命も終わったようにみえる。Blanchard-Summersは「もし日本の経験が先進国の先例になるとすれば、必要なのはマクロ経済政策の進化ではなく革命だろう」という。
これはその後も長く論争になったが、最終的にはフリードマンが勝った。彼の政策はサッチャーやレーガンの政権で実行され、歴史を変えたのだ。中央銀行を政府から独立させて非裁量的な目標でコントロールする制度が1990年代に確立し、「景気循環は終わった」ともいわれた。
しかし2008年の金融危機がそういう世界を変えた。世界は長期停滞に入り、ゼロ金利で金融政策は有効性を失った。最近のマクロ経済学をみると、フリードマン革命も終わったようにみえる。Blanchard-Summersは「もし日本の経験が先進国の先例になるとすれば、必要なのはマクロ経済政策の進化ではなく革命だろう」という。
ゼロ金利の中で金融政策が無効になる一方、最近のMMTの流行にもみられるように、財政政策を支持する人が増えてきた。理論的にも、政府と中央銀行のバランスシートを一体で考えるのが常識になりつつある。
「大きな政府は成長率が低下する」という通念も変わった。政府支出の規模とGDPの相関でみると、北欧諸国の一人当たりGDPはアメリカより高く、社会保障支出と成長率には正の相関がある。小国の成功体験は日本には当てはまらないという反論もあるが、少なくとも「福祉国家は停滞する」とはいえない。
ただし「財政赤字で成長する」というのも幻想だ。図のように日本の政府債務は飛び抜けて多いが、潜在成長率は健全財政の北欧のほうが高い。むしろ日本は高債務・低成長の南欧に近づいている。「過剰な政府債務は成長を阻害する」というラインハート=ロゴフの理論が正しいようにみえる。
フリードマンにはもっと根本的な問題意識があった。それは第2次大戦の時期にユダヤ系移民として体験した、全体主義への恐怖と国家への不信だった。彼にとって「小さな政府」は経済的な効率の問題ではなく、国家権力の役割を小さくすること自体が目的だったのだ。
彼の経済理論は今では必ずしも正しくないが、1980年代に彼の影響を受けたサッチャーやレーガンの「新自由主義」は冷戦を終了させ、歴史に後戻りできない変化をもたらした。むしろフリードマンの最大の敵だった社会主義の崩壊によって、彼の役割は終わったのかもしれない。
「大きな政府は成長率が低下する」という通念も変わった。政府支出の規模とGDPの相関でみると、北欧諸国の一人当たりGDPはアメリカより高く、社会保障支出と成長率には正の相関がある。小国の成功体験は日本には当てはまらないという反論もあるが、少なくとも「福祉国家は停滞する」とはいえない。
ただし「財政赤字で成長する」というのも幻想だ。図のように日本の政府債務は飛び抜けて多いが、潜在成長率は健全財政の北欧のほうが高い。むしろ日本は高債務・低成長の南欧に近づいている。「過剰な政府債務は成長を阻害する」というラインハート=ロゴフの理論が正しいようにみえる。
フリードマンにはもっと根本的な問題意識があった。それは第2次大戦の時期にユダヤ系移民として体験した、全体主義への恐怖と国家への不信だった。彼にとって「小さな政府」は経済的な効率の問題ではなく、国家権力の役割を小さくすること自体が目的だったのだ。
彼の経済理論は今では必ずしも正しくないが、1980年代に彼の影響を受けたサッチャーやレーガンの「新自由主義」は冷戦を終了させ、歴史に後戻りできない変化をもたらした。むしろフリードマンの最大の敵だった社会主義の崩壊によって、彼の役割は終わったのかもしれない。