金利がマイナスになるとはどういうことだろうか。そもそも銀行はマイナス金利の国債をなぜ買うのか――こんな疑問をもつ人は多いだろう。その答は簡単だ。もうかるからである。国債の金利は下がり続けているので、価格は上がり続けているのだ。

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これはきょう13時現在の日本国債先物の価格だが、152.45円。10年前の140円に比べると、10年で8.5%も値上がりした。リスクゼロで、これだけキャピタルゲインの出る金融商品は他にない。その一つの原因は日銀が国債を大量に買ったからだが、企業が貯蓄超過になって資金需要が足りないことが根本的な原因だ。

このように金利<成長率(r<g)になる動学的に非効率な経済では、慢性的に金余りなので安全資産に資金が集中してバブルが発生する。その対象は、1980年代には(安全資産と思われていた)土地だったが、90年代から国債に変わった。これは余った資金を回転させて資金配分の効率を高める合理的バブル(Tirole)で、理論的にはr=gとなるまで続く。

日本のバブルが崩壊したのは、不動産投資に資金が集中してr>gとなってからも公定歩合の引き上げが遅れ、資本収益率をはるかに上回る価格で投資が行われたためだった。しかし90年代から資金の集中した国債の金利は上がらず、r<gが20年以上続いている。これは日銀が買い支えているためだからバブルはそのうち崩壊する、と警告した人は(私を含めて)多いが、今までは崩壊しなかった。では今後、崩壊する可能性はあるのだろうか?

財政赤字をどうコントロールするか

それは動学的に非効率な状態(r<g)がいつまで続くのかという問題と同じだが、理論的にはわからない。実証的には、アメリカでは戦後ずっとr<gが続き、それが逆転したのは1980~90年代だけだった、とブランシャールは指摘している。
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このadjusted rateは、国債とリスクの高い社債などを平均した金利である。日本では戦後ずっと規制金利が続いてきたので、本来の金利がわかりにくいが、2000年代以降は短期金利はゼロで、長期金利もゼロに近づいている。

今後はどうなるだろうか。政府の中期財政計画の「成長実現ケース」で、2028年に「長期金利=名目成長率=3.4%」という奇妙な予想をしているが、「ベースラインケース」では長期金利2.0%で名目成長率1.5%。つまり政府はr≧gと予想しているが、これは財務省の政治的意図によるものだろう。

長期的にr<gが続くかどうかは、2000年代の財政タカ派と上げ潮派の論争になったが、2010年代の日本では平均するとr<gになっており、少なくとも債券市場は今後もそれが続くとみている。名目成長率1.5%というベースラインの想定で名目金利をゼロとすると、消費税率8%でもPBは2020年代前半に黒字になる。

しかし財政赤字は危険である。大幅な赤字が続くと(需給要因で)r>gになり、国債バブルが崩壊する可能性がある。これを防ぐには長期金利が異常に上昇したら国債の発行を一時停止するなどの財政的対応が必要だ。そのために日銀政策委員会にそういう権限をもたせるというのがターナーの提案だが、最終的に財政をコントロールするのは政府だ。

国債はバブルだが、それが続く限り「よいバブル」である。それを維持するには、政府が財政赤字を濫用しないというコミットメントが必要である。