今月出たRachel-Summersの論文は、長期停滞を実証的に分析している。低金利は2010年代の一時的な現象ではなく、世界金融危機が原因でもない。過去40年間に実質長期金利は先進国で3%ポイント下がり、図1のように世界的に実質金利はゼロに収斂している。

図1 日米欧の実質長期金利
図2は先進国の中立金利(インフレにもデフレにもならない実質金利)の変動を要因分解して、今後の変動を予測したシミュレーションだ。下に描かれている人口減少や労働時間の短縮が金利を下げる要因、上に描かれている老人医療や社会保障や政府債務が金利を上げる要因だ。政府部門の需要超過が、民間部門の需要不足をほぼ埋め合わせている。

図2 先進国の中立金利R*の変動要因

図2は先進国の中立金利(インフレにもデフレにもならない実質金利)の変動を要因分解して、今後の変動を予測したシミュレーションだ。下に描かれている人口減少や労働時間の短縮が金利を下げる要因、上に描かれている老人医療や社会保障や政府債務が金利を上げる要因だ。政府部門の需要超過が、民間部門の需要不足をほぼ埋め合わせている。

こうした分析からRachel-Summersは、金利低下の原因は民間の構造的な投資不足なので、中立金利は今後50年以上も毎年1%以上低下すると予想している。今後もずっと世界的にマイナス金利が続くとすると、財政赤字を心配する必要はない。むしろマクロ経済のバランスを保つためには一定の財政赤字が必要だ、というのが彼らの結論である。
この論文のおもしろいところは、今まで金利低下やデフレの原因と考えられていた人口減少や労働時間短縮の影響が予想以上に大きく、民間の需要不足を政府が財政赤字で埋めてゼロ金利になっているということだ。
普通のマクロモデルでは、労働人口がおおむね同じと考えるので、中立金利(自然利子率)は潜在成長率にほぼ等しくなる。図2でも中立金利(黒い線)はTFP成長率(緑の部分)の下に描かれているが、超長期でみると人口減少や労働時間短縮の影響が大きいので、もっと金利は下がるはずだ。
それに対して社会保障支出などの政府支出で金利が上がるので、両方が相殺されてゼロ金利になっているという。だから財政赤字がなくなると、中立金利はさらに下がる可能性がある。だから人口減少や高齢化が急速に進む日本で、先進国に先んじてデフレが起こったことは不思議ではなく、今後は他の国が日本と同じ状況になる可能性がある。
この推定が正しいとすると、大きなマイナス金利が財政赤字によってかろうじてプラマイゼロになっているので、財政赤字を削減するともっと大幅なマイナス成長になる。これはブランシャールも指摘していることで、彼は「日本は今後もプライマリー赤字を続けることが望ましい」という。したがって今の日本で消費税を増税することは望ましくないということになる。
もちろんこれはRachel-Summersのモデルに依存する結論なので、フェルドシュタインのように「このまま財政赤字が拡大すると長期金利が上昇して財政が破綻する」という見方もある。未来が今までと同じだという保証はないが、そう仮定すると今までのマクロ経済政策を根本的に考え直さなくてはいけない。
1970年代にフリードマンが自然失業率理論でケインズ理論を否定したあと、自然利子率はプラスだというのが経済学者の暗黙の前提だったが、それは戦後の成長期の特殊な現象だったのかもしれない。今後も新興国ではプラスの金利が続くが、人口の減少する先進国で金利がマイナスになることは避けられないのだろうか。
この論文のおもしろいところは、今まで金利低下やデフレの原因と考えられていた人口減少や労働時間短縮の影響が予想以上に大きく、民間の需要不足を政府が財政赤字で埋めてゼロ金利になっているということだ。
普通のマクロモデルでは、労働人口がおおむね同じと考えるので、中立金利(自然利子率)は潜在成長率にほぼ等しくなる。図2でも中立金利(黒い線)はTFP成長率(緑の部分)の下に描かれているが、超長期でみると人口減少や労働時間短縮の影響が大きいので、もっと金利は下がるはずだ。
それに対して社会保障支出などの政府支出で金利が上がるので、両方が相殺されてゼロ金利になっているという。だから財政赤字がなくなると、中立金利はさらに下がる可能性がある。だから人口減少や高齢化が急速に進む日本で、先進国に先んじてデフレが起こったことは不思議ではなく、今後は他の国が日本と同じ状況になる可能性がある。
財政赤字がなかったらマイナスはもっと大きくなる
これはケインズが1930年代に見たような需要不足が、21世紀に起こっていることを意味する。違うのは30年代の需要不足は一時的なもので、財政政策(特に戦争)で埋めることができたが、今の需要不足は構造的なもので、容易に埋められないということだ。この推定が正しいとすると、大きなマイナス金利が財政赤字によってかろうじてプラマイゼロになっているので、財政赤字を削減するともっと大幅なマイナス成長になる。これはブランシャールも指摘していることで、彼は「日本は今後もプライマリー赤字を続けることが望ましい」という。したがって今の日本で消費税を増税することは望ましくないということになる。
もちろんこれはRachel-Summersのモデルに依存する結論なので、フェルドシュタインのように「このまま財政赤字が拡大すると長期金利が上昇して財政が破綻する」という見方もある。未来が今までと同じだという保証はないが、そう仮定すると今までのマクロ経済政策を根本的に考え直さなくてはいけない。
1970年代にフリードマンが自然失業率理論でケインズ理論を否定したあと、自然利子率はプラスだというのが経済学者の暗黙の前提だったが、それは戦後の成長期の特殊な現象だったのかもしれない。今後も新興国ではプラスの金利が続くが、人口の減少する先進国で金利がマイナスになることは避けられないのだろうか。