シフト&ショック──次なる金融危機をいかに防ぐか
リーマンショックから10年たち、世界的に景気が減速してきた。1980年以降、世界規模の金融危機は6回発生したので、次の危機が起こってもおかしくない時期だ。本書は2008年以降の危機の総括だが、経済システムの機能について「経済学の定説はなんの役にも立たないことが明らかになった」と断定し、「新しい思想」が必要だと強調している。

金融危機の最大の原因は世界的な貯蓄過剰で、それを生んだのは1990年代から始まった新興国の供給過剰と先進国の需要不足だった。これが世界的な低成長・低インフレ・低金利の原因ともなっている。この資金需給のギャップを埋めるのが銀行の役割だが、このとき銀行は信用創造という形で私的マネーを作り出す特権をもっている。

このマネーが好況のときは膨張してバブルをもたらす一方、不況のときは収縮して金融危機を起こす。しかし主流派のマクロ経済理論(DSGE)には貨幣が存在しないので、バブルの生成と崩壊を分析できない。フローの「インフレ目標」で経済をコントロールする金融政策も時代遅れだ。金融危機を生むのは資産価格の崩壊だからである。

こういう状況を分析する理論はまだないが、著者は異端派の経済理論にそのヒントを見出す。その一つが、銀行の信用創造を禁止してナローバンクにする「シカゴプラン」で、この考え方はMMTと同じだ。私的マネーを廃止して中央銀行が財政ファイナンスで過剰貯蓄を吸収すれば、資産価格をコントロールして金融危機をなくすことができるという。

劣化した金融仲介機能

これは日本経済にとっても重要な問題である。日本の企業は貯蓄過剰なので、日銀の金融緩和は民間に対する貸出を増やす効果がなく、財政ファイナンスである。これ自体は悪ではなく、総需要の不足を政府が補うことは、金利上昇が起こらなければ問題ない。

むしろ今の日本のように完全雇用に近い状態で、総需要の不足を補うメリットがあるのかということが問題だ。この点は本書もいうように、政府が通貨を直接コントロールし、銀行の預金準備率を100%にして信用創造をなくせば、金融危機のリスクはなくなる。

1998年以降の日本経済で企業貯蓄が激増した一つの原因は、資金繰りが悪化したとき銀行が貸してくれないという負債への恐怖だった。特に中小企業が貯蓄や自己資本を強化したため、金融仲介機能が劣化し、経済全体が萎縮した。

それを防ぐ究極的な方法は、金融仲介機能を銀行から分離することだ。それは技術的には不可能ではない。日銀はすでに大規模な財政ファイナンスをやっているので、すべての国債を買い切ってマネタイズし、預金準備率を引き上げればいいのだ。すべての政府債務を日銀がファイナンスすれば、統合政府(政府+日銀)としての債務は同じだ。

これはヘリコプターマネーと同じで、今でもやろうと思えばできる。問題は財政インフレが起こるのではないかということだが、物価水準は長期的な投資家の予想に依存するので、こういう長期計画を明示すれば、国債価格は暴落しないかもしれない。もちろんこれはきわめて危険な実験なので、政治的に実現する見込みはないが、思考実験としてはおもしろい。