JBpressで提案した私の区画整理案が論議を呼んでいるようだ。これは図の上のようにバラバラに割り当てられているホワイトスペースを整理して、使われていない(免許人のいない)チャンネルを売却するというシンプルな提案だが、「まさかそんな簡単なことを今までやってないとは信じられない」という人が多いようなので、ありうべき疑問に答えよう。

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  1. SFNは実装できるのか:日本の地デジ(ISDB-T)はSFNを前提に設計されており、すでにRKB毎日放送などで運用されている。技術的な条件としては遅延を±126μsec以内に収めるため、局間の距離を37.8km以内にする必要があるが、これはすべての中継局が満たしているはずだ。

  2. 同じ系列で全国1チャンネルにできないのか:それがベストだが、全国で同じ周波数にする必要はない。エリアごとに空いているチャンネルが違っても、基地局からの信号で携帯端末のチャンネルを切り替えればいい。これは現にやっている(キャリアに割り当てられたチャンネルは地域ごとに違う)。端末の半導体は作り直す必要があるが、これは5Gでも同じ。

  3. テレビ中継局に対する干渉は起こらないか:厳密にはゼロではないが、実用的には問題にならない。たとえばNHK総合はつくば市では49chだが、東京スカイツリーでは27chなので、茨城県から埼玉県に移動する途中で、携帯端末の送信波がテレビのサテライト局に干渉する可能性があるが、テレビの出力は数kW、携帯端末は0.2W程度で数万倍ちがうので無視できる。基地局は設置するときチャンネルを分離するので問題ない。

  4. なぜアメリカではできなかったのか:2000年ごろから、既存局の電波を検知して端末の周波数を動的に切り替えるオーバーレイ技術が開発された。これはIEEE802.11afなどとして標準化されたが、テレビ局の反対で実用化できなかった。アメリカの地デジ(ATSC)はSFNに対応できないことが大きな原因だったが、日本ではSFNで区画整理すれば動的に切り替える必要がない。

  5. テレビ局がSFNに切り替えるコストはどうするのか:今でもエリア間の伝送は光ファイバー(IP)でやっているので、エリア内の中継局をそれと同じ方式にするだけ。1chですべての中継局を運用できるので、保守管理のコストは削減できる。そのコスト(ルータや専用線の料金)は電波の価値に比べると微々たるものだから、オークションで落札した業者が負担すればよい。

  6. 5Gと競合するのではないか:5Gは4GHz以上の高い周波数を使うので膨大な基地局が必要で、公衆無線には適していない。その技術を開発するのは結構なことだが、それよりはるかにコストの低いUHF帯のほうが通信キャリアにとってもうれしいだろう。5Gは変調方式の分類なので、UHF帯で使うことも可能だ。アメリカでは600MHz帯に実装が始まっている。

  7. W-Fiに割り当てるべきではないか:これはありうる。用途を決めない帯域免許でオークションをやると、独占利潤の上がる通信キャリアが有利だが、端末の性能はIEEE802.11afなどの「高効率ワイヤレス」のほうが高い。200MHzという帯域は大きすぎるので、一部をWi-Fiで使うことも考えられる。

  8. 今の周波数のままで空いている帯域を通信に割り当てられないか:技術的には不可能ではない。今でも470~710MHzは特定ラジオマイクが(免許不要で)共用している。電波を動的に割り当て、テレビ局の使っている帯域を避けるオーバーレイ技術は開発されているが、テレビ局が「干渉のリスクがある」と反対するので、クリーンに空けたほうがいい。

  9. SFNは局間の距離が37.8kmを超えると干渉が起こるので異なるチャンネルが必要だ:これは規制改革推進会議でNHKの児野技師長が主張した問題だが、この解決法は簡単である。37.8km以内になるように簡易中継局を置けばいいのだ。これはビルの屋上にWi-Fiのモデムぐらいのリピーター(増幅器)を置くだけで、コストは1本数万円だろう。今の受信障害の対策でも、そうしているはずだ。
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