JBpressの記事は技術的な話をはしょったので、わかりにくいかもしれない。特に最後のページの「放送の中継局は整理して周波数を統一すればよい」という話はむずかしいので、補足しておく。テレビ局には「オークションをすると既存局が立ち退きを迫られる」という誤解があるが、この問題は地デジではSFN(単一周波数ネットワーク)という技術で解決している。次の図は、いま稼働しているRKB毎日のSFNの一例である。

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SFNによる局間伝送(日立情報通信ネットワーク

現在の地デジは、図の上のように放送波で局間伝送する放送波中継なので、中継と放送の電波が干渉しないように複数のチャンネルが必要だが、地デジのOFDMという変調方式では干渉が防げる。そこで放送波中継をやめ、局間は光ファイバーのIP網(UM6000Rは日立の伝送装置)で伝送し、放送の周波数をエリア内で同一にする技術がSFNである。

このシステムはバックアップだが、現在の置局は全国どこでもSFNもできるように設計されているので、通常と同じ放送ができる。つまりテレビ局がSFNで運用すれば、オークションで空いた電波を売っても地デジの放送を今まで通り続けることができるのだ。

テレビ局は立ち退く必要がない

地上波のチャンネルは最大でも関東地方の12局しかないので、1チャンネルに6MHz使っても72MHzあれば全国に放送できる。SFNで圧縮したチャンネルを470~542MHzに割り当てれば、残りの168MHzをオークションにかけることができるので、逆オークションは必要ない(この点でSFNのできないアメリカより楽)。

この帯域は概算で100億円/MHzとすると、1兆6000億円。これを落札できるのは通信キャリアしかないので、テレビ局の新規参入を心配する必要はない。テレビ受像機の周波数変更は自動的にできるので、移行期間は1年もあれば十分だろう。

SFNはもともと地デジの特長である。アナログ放送では、同じ周波数で複数の局から送信するとマルチパスやゴーストなどの電波障害が起こるので、中継局ごとに別の周波数が必要だが、地デジのOFDMは干渉が起こらないので、本来は1エリア1波でよい。ブラジルなどに売り込んでいるシステムは、SFNで運用している。

ところが地デジの電波を割り当てるとき、アナログ時代と同じように中継局ごとに別の電波を割り当てたので、大きな無駄が発生した。これがホワイトスペースである。たとえば茨城県では、地デジ中継局の使っているチャンネルを赤く塗りつぶすと、次のようになっている(GはNHK総合、Eは教育、Nは日本テレビ、TはTBS、Fはフジ、Aはテレ朝、Vはテレ東)。

地デジの周波数割当(茨城県)クリックで拡大

UHF

表の空白の部分が、放送局に割り当てられながら使われていないホワイトスペースで、40チャンネル(13~52)×10エリアの1割も使われていない。たとえば水戸では、13~15と16~20の7チャンネルしか使っていない。全国をみても最大12チャンネルしか使っていないので、電波は任意の地点で33チャンネル(約200MHz)も空いているのだ。これは現在の4Gで通信キャリア3社が使っているよりも大きな帯域である。

SFNを使えば13~20チャンネルだけで、次の図のように全県に放送できる。このチャンネル変更は中継局の側でやり、受像機で初期スキャンをやりなおせば自動的に変更できるので、まったくコストはかからない。残りの33チャンネルは完全に空くので返却し、政府がオークションで売却すればよい。SFNのほうが中継局の構造も簡単で、運用も楽になる。

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これによって空く周波数を携帯端末が使うが、各県で使えるチャンネルが違うので、携帯の側で対応しないといけない。これはオークションのときテレビ局に迷惑をかけないことを条件とし、キャリア側で工夫すればよい。携帯の出力はテレビよりはるかに小さいので、各県で異なるチャンネルを使うようにフィルターを変更することは技術的にむずかしくない。そのコストはオークションによる1兆円以上の国庫収入に比べればわずかなものだ。