きのうのアゴラこども版の記事は「免許による業務独占は非効率だ」という当たり前の話だが、獣医のみなさんには当たり前ではなかったようだ。これが彼らにとってメリットがあるのは当然だが、問題は独占の社会的コストである。これを具体的な金額で計算するのはむずかしいが、経済学の初歩的なロジックで答が出る。

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この図はリクナビの記事から引用したものだが、経済学でおなじみの「余剰分析」だ。くわしいことはこの記事を読んでいただきたいが、簡単にいうと、業務独占で価格が上がって供給が減ると、消費者と生産者の余剰の合計は競争的な場合より小さくなる。図の三角形の「厚生の損失」が出るからだ。

つまり市場価格で評価すると、業務独占は社会的な浪費(死荷重)をもたらすが、例外的な場合にはこの死荷重より大きなメリットがあるかもしれない。それは(人間の)医師では考えられるが、そのメリットがこの社会的コストより大きいかどうかは疑問だ。

独占レントでモラル・ハザードを防ぐ

では免許制度のメリットとは(あるとすれば)何だろうか。それは情報の非対称性が大きい場合に、それを利用したモラル・ハザードを防ぐことだ。医師の場合はこの非対称性が大きいので、乱診乱療のリスクは大きい。患者がそれをチェックできればいいが、その知識がない。政府が医師を個別に監視するコストも膨大だ。

こういう場合、医師に独占レントを与え、違反行為が見つかった場合に医師免許を取り消すことがモラル・ハザードの防止策になりうる。このためには医師の供給を制限し、市場より高い所得を保証する必要があるが、そのメリットが高い治療費の社会的コストより大きいかどうかは状況によって違う。

医師や弁護士の免許は中世にできたギルドのなごりだが、ギルドが必ずしも不合理とはいえない。グライフなどの実証研究では、商人ギルドのあった地域のほうがなかった地域より成長率が高かったという。メンバーの独占レントを守ることで、モラル・ハザードを防いだからだ。

獣医の場合には乱診乱療のリスクは問題にならないので、免許は必要ない。パイロットやバス・タクシーの場合は「自己責任」ではすまない外部性が大きいので、運転免許は必要だが、職業免許は必要ない。教師も高校までは免許が必要なのに、大学に必要ないのはおかしい。すべて資格認定でよい。学校が採用する段階でスクリーニングするからだ。