成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学
あなたが東証一部上場企業に勤務し、年収が1000万円だとしよう。労働人口の中で東証一部企業の比率は5%、そのうち年収1000万以上は10%しかいないので、あなたは日本のサラリーマンの0.5%しかいないエリートである。その地位は実力だろうか? それとも運だろうか?

それが実力だと思う人は保守派だから、所得はすべて自分のものだと考える。それが運だと思う人はリベラルだから、所得再分配が必要だと考える。著者はリベラルなので、運の要因が大きいと考える。あなた以外の99.5%の中には、あなたより能力のある人がいるはずだ。彼らがあなたに負けたのは、大学入試で失敗したからかもしれないし、就職のとき景気が悪かったからかもしれない。

アメリカの大企業のCEOの報酬は異常な高額になっているが、企業業績と経営手腕の相関は低い。大部分は運だが、巨額の報酬で他社のCEOを引き抜く市場ができると、彼を引き留めるために巨額の報酬を出さざるをえないという悪循環に陥る。アメリカ経済は1990年代からこういうひとり勝ち経済になり、バブル的な「悪い均衡」に陥っている。その原因はグローバル化とITだ、というのが著者の分析である。

「累進消費税」の提案

かつてインターネットの普及で「ロングテール」のマイナーな商品が売れるようになる、という話が流行したが、実証研究の結果は逆だ。デジタル音楽の売り上げ上位1/1000の曲が、2007年には売り上げの7%を占めていたが、2011年には15%になった。その原因は、アマゾンのCEOジェフ・ベゾスのいうように「早く大きくなった」業者がさらに大きくなるからだ。

このようなネットワーク外部性はVHSとベータマックスのころからよく知られているが、インターネットでさらに大きくなった。また企業のグローバル化でネットワークが大きくなり、初期に最大手になった企業を抜くことがむずかしくなった。これから日本の企業が、グーグルやアップルと同じ市場で勝負することは不可能だ。

ではどうすべきか。著者の提案する政策は、累進消費税(progressive consumption tax)である。これは所得ではなく消費に課税するもので、ミルトン・フリードマンが賛成し、彼が1943年に書いた累進消費税についての論文を送ってきたという。今これを推進しているのも、ケイトー研究所のようなリバタリアンだ。

これは法人税をキャッシュフロー税にする国境調整税と同じく、所得の捕捉率による不公平をなくし、キャッシュフローベースで課税するもので、資産の海外逃避を減らして成長率が上がる。日本でも検討に値すると思う。