アナキスト民俗学: 尊皇の官僚・柳田国男 (筑摩選書)
日本人が「強いリーダー」をきらい、権力の分立を好むアナーキーな傾向は多くの人が指摘しているが、その原因ははっきりしない。本書は柳田国男が若いころクロポトキンの影響を受け、そのアナーキズムを学問的に表現したのが「常民」を中心とする民俗学だったという。

農商務省の官僚だった柳田は、1910年の大逆事件を機にアナーキズムを「表」では語らなくなるが、その民俗学には常民のアナーキーな心情が記録されている。柳田は平民社のメンバーとも交流があり、社会主義に密かに共感していた。その「裏」には、クロポトキンと共通の「相互扶助」への信頼があり、農本主義的な歴史観があったという。

発想はおもしろいが、本書が実証的に論じているのはここまでだ。後半はヘーゲルやフッサールからメイヤスーまで話が脱線し、本筋に戻らない。誤字も多く、飲み屋の与太話を聞かされているような感じだ。肝心の柳田とクロポトキンのつながりを示すのは2本の講演記録だけで、最後は「戦後天皇制はトーテミズムとして完成した」という意味不明な結論で終わる。

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