きのうのVlogで紹介したように、失業率と自殺率には強い相関がある。自殺者数は1998年に一挙に34.7%も増えて3万人を超えたが、このとき完全失業率も3.4%から4.1%に上がった。その後も失業率は上がり続け、2003年にピークを打った。

実は、この相関は男性に限られる。1953年からの男性の完全失業率と自殺率の相関係数は0.891だが、女性の自殺率は無関係だ(相関係数-0.223)。これは会社という「家」を失ったショックが、自殺の最大の原因であることを示唆している。世界的にみると、日本の自殺率は旧社会主義国に次いで高い。


そして失業率が下がるとともに自殺者も減り、2016年の速報値では2万1764人と1997年を下回った。これを「アベノミクスのおかげだ」という人がいるが、図のように失業率も自殺率も民主党政権の2009年から減り始めたので、それは間違いである。
ここまで下がっても、WHOの統計によると、日本の自殺率は10万人あたり18.5人とG7諸国で最悪で、第2位のフランスの1.5倍。日本より上位の国は、旧社会主義国が多い。これは日本の不良債権処理による企業倒産と失業が、社会主義の崩壊と同じく、自分の所属する共同体を失ったショックを引き起こしたためとみられる。失業率と自殺率の相関が強いのは日本の特徴で、1990年代に不良債権処理をやった北欧では失業率は下がった。

日本も1997年までは経済が悪い悪いといわれながら、失業率はそれほど上がらなかった。この時期にルールにもとづいて不良債権を処理していればよかったのだが、先送りして問題を大きくし、結果的には山一証券の破綻(富士銀行の取りつけ)で、爆発的に危機が顕在化した。

これから日本は、国債の「出口」という90年代より1桁大きい問題に直面する。そのとき注意すべきなのは、山一やリーマンのような「ショック」である。最終的には避けられないバブルの調整であっても、ルールにもとづいて整然とやれば大きな犠牲は出ない。黒田総裁が再任されれば時間をかけて出口をさぐると思うが、本田悦朗氏が指名されると市場にショックを与えるだろう。