ヒトはどこまで進化するのか
E.O.ウィルソンは「社会生物学」の創始者だが、50年前に自分の唱えた包括適応度の理論を否定し、マルチレベル淘汰の理論を主張している。しかし学界の反応は冷たい。ほとんどの事実は従来の理論で説明できるからだが、それは一般読者にとっては大した問題ではない。

大事なことは、ヒトの真社会性(eusociality)がその優位性の源泉だという点で生物学者が一致していることだ。真社会性とは、蟻や蜂のように巣をつくって社会的分業を行う能力で、20種類の動物で発見されているが、霊長類の中ではヒトにしかない。他の類人猿に比べて肉体的にひ弱なヒトがここまで繁殖した原因は、この真社会性にある。

ヒトは脳が大きく、家族を超えて集団で行動する能力を発達させた。その集団行動の武器になったのが宗教である。食欲や性欲はチンパンジーにもあるが、宗教はヒトにしかない。ウィルソンは「脳は宗教のために、宗教はヒトの脳のためにあつらえられた」という。

ここでいう宗教は一神教だけなく、他人と同調する集団的な感情であり、日本人には「空気」といったほうがわかりやすいだろう。脳の中で論理的に思考する機能は小さく、大部分は人間関係の調整に使われている。経済学が合理的選択を基準にして感情を「バイアス」と呼ぶのは逆で、感情で集団を同調させる脳の機能から合理的な思考が派生したのだ。

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