インフレ税がいろいろ話題になっているので、理論的な背景を整理しておこう。これは新しい理論ではなく、1990年代からFTPL(物価水準の財政理論)として知られている。これはMMTのようなトンデモ理論ではなく、その発案者クリストファー・シムズはノーベル経済学賞の受賞者である。

物価水準=名目政府債務/プライマリー黒字の現在価値 (1)
ここで名目政府債務は1300兆円だから、物価が1前後で安定しているということは、投資家が日本政府は将来1300兆円のプライマリー黒字を出すと予想していることを示す。
これは明らかに不可能だから、政府(財務省)は過剰に信頼されている。いずれ投資家は間違いに気づくだろうと思って、多くの専門家が金利上昇とインフレを予想したが、ことごとく外れた。なぜだろうか?
均衡物価水準>名目政府債務/プライマリー黒字の現在価値 (2)
というハイパーリカーディアンな不均衡状態になっているのだ。シムズは(2)式を等号に近づけるために消費税の増税を延期して税収(右辺の分母)を減らし、徐々に均衡に近づける「財政インフレ」を提案した。これは政府債務をインフレで削減する実質債務のデフォルトである。
インフレは預金課税なので、預金の7割をもつ老人に負担が集中するが、彼らは気づかない。3%のインフレが10年続けば老人の年金や預金は3割目減りし、社会保険料は実質的に軽減される。シムズもこう述べている。
コクランは2011年に過剰な財政支出を批判し、国際資本移動の自由な世界では、アメリカの財政赤字はインフレを招いてドル安を招き、「ドルの取り付け」が起こると警告した。日本が過剰な財政赤字を続けると、キャピタルフライトで円が暴落するかもしれない。
これについてはシムズは楽観的で、むしろ「日本では何も起こらないことがリスクだ」と述べたが、外為市場の主役は海外ファンドなので、財政赤字が増えて金利が上がると財政黒字の予想(将来のプライマリー黒字を金利で割り引いた現在価値)が縮小し、物価が上がって円が下がる。短期の金利平価とは逆に、金利が上がると円は下がるのだ。
それをコントロールするには、政府と日銀が新たなアコードを結んで3%のインフレ目標を設定し、未達の場合には政府が財政赤字を増やして物価を上げる一方、日銀にも為替介入の権限を与えて円安をコントロールする必要があろう。

「人為的な財政インフレ」は可能か
彼は2017年に来日して、安倍首相に「消費税の増税を延期すればインフレになる」と提言した。話が奇想天外なので、さすがの安倍氏も乗らなかったが、シムズはハイパーリカーディアンというおもしろい言葉で、日本の現状を表現している。この種の議論をする際によく持ち出されるリカーディアン均衡(リカードの等価定理)的な考え方では、追加的な政府支出の効果は将来の増税予測によって相殺されるというが、現在は[日本では]相殺どころか、それ以上の増税を予測する「ハイパーリカーディアン」とでも呼ぶべき「期待」がむしろ広がってしまっている。FTPLはインフレを貨幣的現象ではなく財政的現象と考える理論である。ここでは物価水準を無限の将来にわたる税収(プライマリー黒字)の割引現在価値で決まるものと考え、その均衡条件は、
物価水準=名目政府債務/プライマリー黒字の現在価値 (1)
ここで名目政府債務は1300兆円だから、物価が1前後で安定しているということは、投資家が日本政府は将来1300兆円のプライマリー黒字を出すと予想していることを示す。
これは明らかに不可能だから、政府(財務省)は過剰に信頼されている。いずれ投資家は間違いに気づくだろうと思って、多くの専門家が金利上昇とインフレを予想したが、ことごとく外れた。なぜだろうか?
インフレ税は社会保障の持続性を高める
この点をFTPLは理論的に示している。(1)式は長期の均衡条件だが、今の物価を将来の黒字の現在価値で説明する式なので、これは明らかに成り立っていない。つまり日本の現状は、過大な財政黒字の予想(国債バブル)によって均衡物価水準>名目政府債務/プライマリー黒字の現在価値 (2)
というハイパーリカーディアンな不均衡状態になっているのだ。シムズは(2)式を等号に近づけるために消費税の増税を延期して税収(右辺の分母)を減らし、徐々に均衡に近づける「財政インフレ」を提案した。これは政府債務をインフレで削減する実質債務のデフォルトである。
インフレは預金課税なので、預金の7割をもつ老人に負担が集中するが、彼らは気づかない。3%のインフレが10年続けば老人の年金や預金は3割目減りし、社会保険料は実質的に軽減される。シムズもこう述べている。
もしも債務の一部をインフレで相殺すると政府が宣言し、一定水準の社会保障を維持できることを人々に納得してもらえれば、社会保障の持続性についての不透明感の低減に役立つはずだ。人々が貯蓄よりも支出を増やせば、経済的な拡張につながる。
リスクはインフレの暴走と円の暴落
シムズの提言は、全知全能で永遠に生きる「代表的個人」を想定すれば成り立つが、現実の個人は近視眼的なので、減税で財政赤字が増えると(1)式によって物価が上がり、名目金利が上がって国債価格が下がる。これによって円が下がると、これによって物価がさらに下がる…というスパイラルに入るおそれがある。コクランは2011年に過剰な財政支出を批判し、国際資本移動の自由な世界では、アメリカの財政赤字はインフレを招いてドル安を招き、「ドルの取り付け」が起こると警告した。日本が過剰な財政赤字を続けると、キャピタルフライトで円が暴落するかもしれない。
これについてはシムズは楽観的で、むしろ「日本では何も起こらないことがリスクだ」と述べたが、外為市場の主役は海外ファンドなので、財政赤字が増えて金利が上がると財政黒字の予想(将来のプライマリー黒字を金利で割り引いた現在価値)が縮小し、物価が上がって円が下がる。短期の金利平価とは逆に、金利が上がると円は下がるのだ。
それをコントロールするには、政府と日銀が新たなアコードを結んで3%のインフレ目標を設定し、未達の場合には政府が財政赤字を増やして物価を上げる一方、日銀にも為替介入の権限を与えて円安をコントロールする必要があろう。


