学生のころ、フリードマンの自然失業率の論文を読んで目からウロコが落ちたが、シムズのジャクソンホール論文は、それ以来だ。フリードマンが見事にスタグフレーションを説明したように、FTPLは長期停滞を説明した。それをフリードマンになぞらえると、自然失業率に相当する重要な概念が非リカーディアン均衡である。
政府の本源的な収入は税収だけだから、長期的には均衡財政になるというのがバローのリカーディアン均衡(中立命題)だが、政府は通貨を印刷して債務を返済できるので、理論的には「無税国家」が可能だ、というのがMMTの主張だが、これはFTPLの特殊な場合として成り立つ。
しかし長期的には実物的な資源制約にぶち当たって金利が上昇し、インフレで名目金利が上がるスタグフレーションが起こる。MMTは「インフレ2%になったら財政支出を止める」というが、不況で財政支出を止めると大不況になる。
これを避けるために財政赤字を減らすと、財政黒字の現在価値が上がり、民間投資をクラウディングアウトして物価が下がる。それは次の均衡条件で説明できる。
物価水準=名目政府債務/財政黒字の現在価値
日本はこの式の右辺(政府債務)が過大な非リカーディアン不均衡(シムズのいうハイパーリカーディアンな状態)なので、分母を小さくする(将来の財政黒字を減らす)ことで左辺(物価)を上げ、非リカーディアン均衡に近づけようというのがシムズの提案である。
日本で長期停滞が続いている原因として「政府債務が大きいことへの不安」がよくいわれるが、その理論的根拠も実証的なデータもほとんどない(中立命題は反証されている)。それに対してFTPLは、クラウディングアウトのメカニズムを理論的に明らかにした。
普通は(Mundell-Flemingのように)国債を増やすと金利が上がって民間投資をクラウドアウトすると考えるが、日本ではゼロ金利のままだ。これが謎で、経済学者は「そのうち上がる」といい続けてきたが、リフレ派に「狼少年だ」とバカにされていた。
しかし上の式で政府が財政を健全化すると、財政黒字の現在価値(右辺の分母)が増えると考えると説明できる。つまり財政赤字を減らすと、国債が投資対象として魅力的になりすぎ、民間投資を締め出してデフレになってしまうのだ。邦銀が融資しないで国債を買うのはこのためだから、財政赤字を増やして財政黒字の現在価値を減らせば、インフレになって民間投資が増える。
今の日本経済は名目政府債務(年金債務などを連結した統合政府の債務)がこの均衡条件よりかなり大きいので、均衡を回復するには財政黒字を増やす(リカーディアン均衡)か、物価が上がる(非リカーディアン均衡)しかないが、財政黒字を増やすとデフレになって状況は悪化するので、実質債務をinflate awayするしかない。
いわば国家の「計画倒産」だが、このとき大幅な円安になって金融資産も減価するので、重要なのは最大の債権者である富裕層を逃がさないことだ。外為管理を厳格化して一時的に「鎖国」し、一挙にハイパーインフレで踏み倒せば、将来世代の背負っている巨額の年金債務も実質的にデフォルトされ、世代間格差も解消する。
政府の本源的な収入は税収だけだから、長期的には均衡財政になるというのがバローのリカーディアン均衡(中立命題)だが、政府は通貨を印刷して債務を返済できるので、理論的には「無税国家」が可能だ、というのがMMTの主張だが、これはFTPLの特殊な場合として成り立つ。
MMTはネズミ講の可能なFTPL
ウッドフォードはFTPLの指導的な理論家だが「政策が非リカーディアンなら、政府予算は外的な制約を受けない」という(p.315)。短期的にはNPG条件が制約にならないのでネズミ講が可能になり、MMTのいうように財政支出で景気は無限によくなるようにみえる。しかし長期的には実物的な資源制約にぶち当たって金利が上昇し、インフレで名目金利が上がるスタグフレーションが起こる。MMTは「インフレ2%になったら財政支出を止める」というが、不況で財政支出を止めると大不況になる。
これを避けるために財政赤字を減らすと、財政黒字の現在価値が上がり、民間投資をクラウディングアウトして物価が下がる。それは次の均衡条件で説明できる。
物価水準=名目政府債務/財政黒字の現在価値
日本はこの式の右辺(政府債務)が過大な非リカーディアン不均衡(シムズのいうハイパーリカーディアンな状態)なので、分母を小さくする(将来の財政黒字を減らす)ことで左辺(物価)を上げ、非リカーディアン均衡に近づけようというのがシムズの提案である。
インフレで世代間格差は解決できる
シムズの話は日本でも、経済学者にさえほとんど理解されなかった。彼が「インフレ目標」とか「消費税を凍結しろ」などというまぎらわしい話をしたため、浜田宏一氏を初めとしてほとんどの人がケインズ理論と混同している。日本で長期停滞が続いている原因として「政府債務が大きいことへの不安」がよくいわれるが、その理論的根拠も実証的なデータもほとんどない(中立命題は反証されている)。それに対してFTPLは、クラウディングアウトのメカニズムを理論的に明らかにした。
普通は(Mundell-Flemingのように)国債を増やすと金利が上がって民間投資をクラウドアウトすると考えるが、日本ではゼロ金利のままだ。これが謎で、経済学者は「そのうち上がる」といい続けてきたが、リフレ派に「狼少年だ」とバカにされていた。
しかし上の式で政府が財政を健全化すると、財政黒字の現在価値(右辺の分母)が増えると考えると説明できる。つまり財政赤字を減らすと、国債が投資対象として魅力的になりすぎ、民間投資を締め出してデフレになってしまうのだ。邦銀が融資しないで国債を買うのはこのためだから、財政赤字を増やして財政黒字の現在価値を減らせば、インフレになって民間投資が増える。
今の日本経済は名目政府債務(年金債務などを連結した統合政府の債務)がこの均衡条件よりかなり大きいので、均衡を回復するには財政黒字を増やす(リカーディアン均衡)か、物価が上がる(非リカーディアン均衡)しかないが、財政黒字を増やすとデフレになって状況は悪化するので、実質債務をinflate awayするしかない。
いわば国家の「計画倒産」だが、このとき大幅な円安になって金融資産も減価するので、重要なのは最大の債権者である富裕層を逃がさないことだ。外為管理を厳格化して一時的に「鎖国」し、一挙にハイパーインフレで踏み倒せば、将来世代の背負っている巨額の年金債務も実質的にデフォルトされ、世代間格差も解消する。