政府の本源的な収入源は徴税しかないと思われているが、政府は国債で資金を調達できるので、その償還を無期延期できるなら国債は通貨と同じである。その残高は統合政府で考えるとマネタリーベースよりはるかに多く、金利をコントロールできる点でも通貨より重要である。

つまり近代国家は、税で収入を得る租税国家から、国債に依存する債務国家に変わったのだ。シムズのFTPLは正統派の理論にもとづいて、債務国家の財政管理を考えるものだ。

債務国家は悪いことではない。Cochraneのいうように国債は政府の発行する株式のようなもので、短期的な景気変動に対するバッファとしては税よりすぐれている。株式は返済する必要がないのと同じく、国債も償還を先送りできる。問題は、政府の「時価総額」がどのように算定されるかだ。
政府の「時価総額」を計算する

これも基本的には株式と同じである。たとえばマイクロソフトの株価が62ドルだとすると、時価総額は株価に発行ずみ株式数77億株をかけて4770億ドルだ。つまり

 時価総額=株式数×株価

ここでマイクロソフトの株式でものを買う経済があるとする。たとえば1株でコーヒー10杯というように物価を決めると、その「物価水準」は価格/株価で決まる。株価が上がるとコーヒーは安くなり、株価の逆数になるので、価格=1/株価。この右辺の分母と分子に株式数をかけると、

 物価水準=株式数/時価総額

同じように(日銀券を含む)国債の価格を考えると、物価水準は次のように決まる。

 物価水準=名目政府債務/税収の現在価値(*)

右辺の分母は、正確には「将来にわたるプライマリー黒字の割引現在価値」である。これも時価総額と同じく実現するとは限らないが、ここでは代表的家計は合理的で、予想が正確に実現すると仮定する。

物価は政府債務で決まる

したがって将来にわたる税収を所与とすると、物価水準は名目政府債務で決まる。これは(業績を所与とすると)株価が株式数で決まるのと同じだが、(*)式は均衡条件なので、予想される名目政府債務が小さくなると物価は下がる。皮肉なことに、政府が財政再建に努力すればするほど予想物価水準は下がり、デフレになるのだ。

他方、名目政府債務が同じで金利が上がると、(*)式の分母が小さくなり、物価水準が上がる。これは通常の金融理論とは逆で、金利が上がるとインフレになるのだ。ここでは貨幣需要関数などを考えていないので、金利上昇にはインフレを抑制する効果もあるが、大きく上がるとインフレになる。

ここでは政府債務は先送りできると仮定しているが、FTPLはいずれ(有限の時間で)均衡財政になると考える。これは100年後でもいいので、実際には無限に先送りするに等しい。では政府は、いつまでも借金を続けることができるだろうか?

答はイエスかつノーである。先送りはできるが、それによって金利が上がると予想されるとインフレが起こる。これを中央銀行がコントロールできるかどうかが問題だが、Del Negro & Simsのシミュレーションではハイパーインフレになる可能性もある。

インフレ税は実質政府債務のデフォルトであり、金融資産に一律に課税する効率的な課税になりうる。特にオフバランスの社会保障債務を裁量的に削減することは政治的に不可能なので、政府と中銀が協力してインフレを起こすことは一つの手段だろう。