日本の政府債務は異常な水準にあり、「国債バブル」が崩壊すると長期金利が上がって国債が暴落し、日銀がそれを買い取って通貨を大量に発行するとハイパーインフレが起こる――という話はよくあるが、それを具体的に証明した論文は意外に少ない。簡単な差分方程式による説明は先週の記事に書いたが、Del Negro & Simsはもっと高度なFTPLモデルで金利上昇をシミュレーションしている。
詳細はリンク先の論文を読んでいただきたいが、簡単にいうと金利上昇とインフレを中央銀行がテイラールールで調節すると何が起こるかを、微分方程式にいろいろな数値を代入して見るものだ。ここでは政府と中銀のバランスシートを統合して考えているが、リフレ派のいうように中銀が国債を買うと相殺されて財政危機がなくなるわけではない。中銀は財政インフレをコントロールできないからだ。
すべての経済主体が合理的である(予想がその通り実現する)と仮定すると、金融市場では何も起こらない。たとえば物価が200%になっても、名目金利も200%になると国債の実質価値は同じなので、中銀のバランスシートは毀損しない。
もちろん現実の投資家は合理的ではないので、彼らの予想が振動すると実質金利が上がり、中銀が物価をコントロールできない「爆発的経路」に入る。これが次の図で、通常のケース(Baseline)でもインフレ率は200%ぐらいになるが、パラメータθπが2以上の場合にはインフレ率は2500%以上になって名目金利も発散し、中銀の実質資産はゼロに近づく。

金利上昇のシミュレーション(縦軸はインフレ率)
このシミュレーションで重要なのは人々の予想の変化率(実際の物価とのずれ)で、それが0だとインフレは名目金利で相殺できるが、予想がわずか0.01%振動するだけで、結果は図のように劇的に変化する。θπは(インフレ率に対する政策金利の感応度を示す)テイラールールの定数だが、それが大きくなると発散する。
中銀はテイラールールによる金利調節でハイパーインフレを抑制できるが、債務超過になると金利調節もきかなくなるので、政府が資本注入する必要がある。これは一時的には非常に巨額になるが、ハイパーインフレが終息すれば中銀が返済できる。
この論文は中銀だけを考えているが、日本では市中銀行も多くの国債を保有しているので、同じことが起こる可能性がある。この場合は日銀が市中銀行に対して無限に資金供給し、金融システムの崩壊を防ぐ必要がある。その場合も政府の資本注入が必要になるだろう。
逆にいうとハイパーインフレの最大の実害は、資産の海外逃避や投機などの混乱と、金融システムの崩壊による取り付け(不特定多数の債権者の取り立て)なので、それさえ防げば危機は乗り切れる、というのがSimsの発想だ。政治的にはそこまで割り切れないが、何が起こるかはほぼ明らかだ。
すべての人が未来を合理的に予想できない限り、長期金利が急速に上昇するとハイパーインフレになるおそれが強い。それに備えるには、中銀が金利調節でインフレを抑制するルールを決め、必要なときは財務省が一時的に数兆円の資本注入ができる制度が必要だ。これを国会が否決すると大混乱になるので、内閣が決められる「金融有事法制」が必要だ。
すべての経済主体が合理的である(予想がその通り実現する)と仮定すると、金融市場では何も起こらない。たとえば物価が200%になっても、名目金利も200%になると国債の実質価値は同じなので、中銀のバランスシートは毀損しない。
もちろん現実の投資家は合理的ではないので、彼らの予想が振動すると実質金利が上がり、中銀が物価をコントロールできない「爆発的経路」に入る。これが次の図で、通常のケース(Baseline)でもインフレ率は200%ぐらいになるが、パラメータθπが2以上の場合にはインフレ率は2500%以上になって名目金利も発散し、中銀の実質資産はゼロに近づく。

金利上昇のシミュレーション(縦軸はインフレ率)
このシミュレーションで重要なのは人々の予想の変化率(実際の物価とのずれ)で、それが0だとインフレは名目金利で相殺できるが、予想がわずか0.01%振動するだけで、結果は図のように劇的に変化する。θπは(インフレ率に対する政策金利の感応度を示す)テイラールールの定数だが、それが大きくなると発散する。
中銀はテイラールールによる金利調節でハイパーインフレを抑制できるが、債務超過になると金利調節もきかなくなるので、政府が資本注入する必要がある。これは一時的には非常に巨額になるが、ハイパーインフレが終息すれば中銀が返済できる。
この論文は中銀だけを考えているが、日本では市中銀行も多くの国債を保有しているので、同じことが起こる可能性がある。この場合は日銀が市中銀行に対して無限に資金供給し、金融システムの崩壊を防ぐ必要がある。その場合も政府の資本注入が必要になるだろう。
逆にいうとハイパーインフレの最大の実害は、資産の海外逃避や投機などの混乱と、金融システムの崩壊による取り付け(不特定多数の債権者の取り立て)なので、それさえ防げば危機は乗り切れる、というのがSimsの発想だ。政治的にはそこまで割り切れないが、何が起こるかはほぼ明らかだ。
すべての人が未来を合理的に予想できない限り、長期金利が急速に上昇するとハイパーインフレになるおそれが強い。それに備えるには、中銀が金利調節でインフレを抑制するルールを決め、必要なときは財務省が一時的に数兆円の資本注入ができる制度が必要だ。これを国会が否決すると大混乱になるので、内閣が決められる「金融有事法制」が必要だ。
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