日本の成長率が下がっている最大の原因は人口減だが、これ自体は大した問題ではない。深刻なのは、一人あたり成長率も下がっていることだ。その解決策として「イノベーション」が必要だといわれるが、その正体ははっきりしない。
5年前の拙著では「イノベーションが衰退したのは日本固有の問題だ」と書いたが、本書は資本主義の運命だという。ひところ「IT革命で成長する」とか「新興国で成長する」とかいわれたが、本書がデータで示すように、両方とも錯覚だった。ITでもうかったのは20世紀に創業したアップルやアマゾンやグーグルであり、新興国のブームも終わった。
5年前の拙著では「イノベーションが衰退したのは日本固有の問題だ」と書いたが、本書は資本主義の運命だという。ひところ「IT革命で成長する」とか「新興国で成長する」とかいわれたが、本書がデータで示すように、両方とも錯覚だった。ITでもうかったのは20世紀に創業したアップルやアマゾンやグーグルであり、新興国のブームも終わった。
その原因は、ある意味では単純だ。リカード以来、経済学では収穫逓減という法則が知られている。大きなイノベーションの初期には少数の企業が高い利益を上げられるが、多くの企業が参入すると技術がコモディタイズして価格が下がり、限界生産性は低下する。初期に大きなシェアを取った企業の独占になり、イノベーションも止まる。
ITの次のイノベーションは何か
教科書でも収穫逓減(費用逓増)が標準的なケースとして書かれている。短期的には固定費の大きい産業では大量生産の利益で収穫逓増が起こるが、長期的には最適規模を超えた企業(GMやIBMなど)は没落する――ケインズなど多くの経済学者がこう考え、サマーズからピケティまで多くの経済学者が長期停滞を予想している。
しかし収穫逓減を打ち消すようなイノベーションも起こるので、超長期で考えると成長率は下がらないというのがシュンペーターの予想だ。今までは先進国の成長率は平均3%ぐらいで一定しており、新興国では平均5%以上だったが、日本はゼロ成長になり、中国もあやしくなってきた。
停滞の原因を本書はgray capitalという奇妙な言葉で表現する。これは株式会社の支配者が年金基金になり、新興国では政府系ファンドが主役になってリスク回避的になる現象だ。経済学でもそういう傾向は1980年代から指摘され、公開会社をファンドがLBOで買収するprivatizationが増えた。
本書は、そういうファンドにも落とし穴があるという。年金ファンドや政府系ファンドが好むのはイノベーションに賭けてリスクを取る企業ではなく、規模が大きくて一定のROEが見込めるknown unknownの企業だから、ベンチャー企業は巨額の資金調達がむずかしい。グーグルやアマゾンに対抗するには、ベンチャーキャピタルでは足りない。
もっと本質的な問題は、コンピュータやインターネットの次の大きなイノベーションが見当たらないことだ。どんな技術も初期には急速に進歩するが、「低い果実」が取り尽くされると収穫逓減が起こる。20世紀前半には電力に関連するイノベーションが増えたが、後半にはITイノベーションが増えた。
しかしITでもう大きな収益は上がらない。2004年に創業したフェイスブックあたりが最後の大物で、今後はそれほどの急成長は見込めない。2010年代にはスマートフォンが大きなブレイクスルーだったが、それで大きくもうけたのは既存企業のアップルだった。
もちろん誰にも予想できないまったく新しいイノベーションはありうる。本書はその可能性に否定的だが、私はあると思う。ウランの核分裂エネルギーは重量あたり石炭の300万倍だが、政治的な障害で原子力のポテンシャルが発揮できない。これはビル・ゲイツも同じ意見で、日本には技術はあるが、政治家がボトルネックになっている。
ITの次のイノベーションは何か
教科書でも収穫逓減(費用逓増)が標準的なケースとして書かれている。短期的には固定費の大きい産業では大量生産の利益で収穫逓増が起こるが、長期的には最適規模を超えた企業(GMやIBMなど)は没落する――ケインズなど多くの経済学者がこう考え、サマーズからピケティまで多くの経済学者が長期停滞を予想している。
しかし収穫逓減を打ち消すようなイノベーションも起こるので、超長期で考えると成長率は下がらないというのがシュンペーターの予想だ。今までは先進国の成長率は平均3%ぐらいで一定しており、新興国では平均5%以上だったが、日本はゼロ成長になり、中国もあやしくなってきた。
停滞の原因を本書はgray capitalという奇妙な言葉で表現する。これは株式会社の支配者が年金基金になり、新興国では政府系ファンドが主役になってリスク回避的になる現象だ。経済学でもそういう傾向は1980年代から指摘され、公開会社をファンドがLBOで買収するprivatizationが増えた。
本書は、そういうファンドにも落とし穴があるという。年金ファンドや政府系ファンドが好むのはイノベーションに賭けてリスクを取る企業ではなく、規模が大きくて一定のROEが見込めるknown unknownの企業だから、ベンチャー企業は巨額の資金調達がむずかしい。グーグルやアマゾンに対抗するには、ベンチャーキャピタルでは足りない。
もっと本質的な問題は、コンピュータやインターネットの次の大きなイノベーションが見当たらないことだ。どんな技術も初期には急速に進歩するが、「低い果実」が取り尽くされると収穫逓減が起こる。20世紀前半には電力に関連するイノベーションが増えたが、後半にはITイノベーションが増えた。
しかしITでもう大きな収益は上がらない。2004年に創業したフェイスブックあたりが最後の大物で、今後はそれほどの急成長は見込めない。2010年代にはスマートフォンが大きなブレイクスルーだったが、それで大きくもうけたのは既存企業のアップルだった。
もちろん誰にも予想できないまったく新しいイノベーションはありうる。本書はその可能性に否定的だが、私はあると思う。ウランの核分裂エネルギーは重量あたり石炭の300万倍だが、政治的な障害で原子力のポテンシャルが発揮できない。これはビル・ゲイツも同じ意見で、日本には技術はあるが、政治家がボトルネックになっている。



