増補改訂版 福沢諭吉と丸山眞男
福沢諭吉はわかりやすい。『福翁自伝』はとても明治時代に書かれたものとは思えないおもしろさで、彼をハイエクのようなリバタリアンと考えることもできるが、彼をそういうモダニストとして読むと、わかりやす過ぎて物足りない。

本書は丸山眞男が福沢に自分を重ねた「丸山諭吉」像をマルクス主義の立場から否定しようとするものだが、致命的な欠陥がある。無署名の『時事新報』の社説をすべて福沢の書いたものと断定し、その国粋主義的な部分だけを取り出しているのだ。これは平山洋氏が詳細に批判したが、今回の「増補改訂版」でも改訂されていない。それを認めると、本書の論旨が根底からくつがえるからだろう。

しかし福沢が「近代日本最大の保守主義者」だという本書の結論には賛成だ。著者はこれを否定的な意味で使っているが、私は肯定的な意味でそう思う。福沢のモダニストとしての「システム2」の基礎には、武士としての「システム1」があり、両者は彼自身が「一身にして二生を経る」とのべたように、彼の中で共存していた。それが明治の日本が自力で近代化をとげた奇蹟を説明する一つの要因だと思う。

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