和辻倫理学を読む もう一つの「近代の超克」
ニーチェは19世紀末に「来たるべき200年はニヒリズムの時代になる」と予言したが、その到達点がポストモダンだとすれば、21世紀はニヒリズムを超える価値が求められる時代だろう。メイヤスーの「新しい唯物論」などはその試みだが、哲学としては成功していない。

ジジェクは「ヘーゲルへの回帰」を主張しているが、和辻哲郎の倫理学はそれに似た面がある。彼のデビュー作は『ニイチェ研究』だが、ニヒリズムを克服する哲学として、彼はマルクスに接近した。それもレーニン的な素朴実在論ではなく「人間は社会的関係の総体である」という「フォイエルバッハ・テーゼ」の社会的人間の思想ととらえたのは、当時としては新しい。

和辻はそこからヘーゲルに傾倒し、彼のような倫理学の体系を書こうとする。それが1930年代から戦後までかけて書かれた大著『倫理学』である。『人間の学としての倫理学』と同じく、和辻は個人ではなく「間柄」から出発し、社会の単位を「家」と考える。

これは日本人論としては卓見だが、彼はヘーゲルの市民社会を「打算社会」として否定し、近代の限界を「家族的共同体」によって乗り超えようとする。その最高度に完成された共同体が国家であり、そこから西洋の打算的な帝国主義を超克する東洋的倫理の戦いとして大東亜戦争が肯定されたのである。

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