現代日本の革新思想〈上〉―丸山眞男対話篇 2 (岩波現代文庫―社会)
JBpressにも書いたように、自民党は小泉進次郎氏を事務局長にして未来志向の構想を打ち出そうとしている。このように自民党が融通無碍に時代に適応するのに対して、野党が教条主義でバラバラという状況は、ここ半世紀ぐらい変わらない。

本書は丸山眞男が1964年に行なった座談会で、彼のまとまった政治的発言としては最後だが、彼も同じような問題を指摘し、それが戦前の天皇制と似ているという。

近代国家を建設するにあたって、伊藤博文などが解決しなければならないテーマは二つあった。一つは近代国家としての法制度を整備すること、もう一つはその新しい国家に国民を総動員することだったが、この二つは必ずしも両立しない。

明治憲法は天皇を主権者と規定していたが、立憲君主制では天皇も国家の機関と考えるのが、美濃部達吉などの憲法学の主流だった。東大法学部の学生は美濃部説にもとづく高等文官試験を通って官僚になったので、これが当時のエリートに共有された密教だった。ところがこれはわかりにくいので、国定教科書では天皇を神格化する「国体」が流布され、これが一般向けの顕教として、国民を戦争に動員するイデオロギーになった。

左翼にも似た面がある。マルクスやエンゲルスの正統的な後継者はカウツキーの社会民主主義であり、最初の革命はドイツで起こるはずだった。しかしそれより先に、誰も想像しなかったロシア革命が成功してしまったため、暴力革命が共産主義の「顕教」になり、街頭デモのような直接行動が多くの大衆を動員した。本書のような知識人の中では、構造改革という「密教」があったのだが、それは日本ではついに多数派にならなかった。

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