民主党政権の政治主導が失敗に終わった一つの原因は、内閣と国会の独特の協調体制を理解していなかったことにある。本書は専門書だが、自民党システムの中核をなす事前審査が帝国議会から始まっていたことを実証している。
明治政府は実質的には長州の藩閥政権だったが、議会が法案に「協賛」することになっていたので、法案提出前に政友会と内閣の協議が行われる慣例があった。これは大政翼賛会になってから事前審査として制度化された。
これは意思決定を行政に一元化する「挙国一致」の行政国家という近衛文麿の理想とも一致していた。東条内閣で戦時体制になると議会の審議は空洞化し、閣議決定の前に事前審査ですべて決まるようになった。
戦後、GHQはアメリカ的な三権分立をめざして国会運営に内閣が介入できないようにしたが、これがかえって事前審査を強める結果になった。国会に提出された法案をどういう優先順位で審議するかは議院運営委員会で決まり、内閣は関与できなかったため、法案提出前に政府・与党で協議して100%完成された法案を出すようになったのだ。
明治政府は実質的には長州の藩閥政権だったが、議会が法案に「協賛」することになっていたので、法案提出前に政友会と内閣の協議が行われる慣例があった。これは大政翼賛会になってから事前審査として制度化された。
これは意思決定を行政に一元化する「挙国一致」の行政国家という近衛文麿の理想とも一致していた。東条内閣で戦時体制になると議会の審議は空洞化し、閣議決定の前に事前審査ですべて決まるようになった。
戦後、GHQはアメリカ的な三権分立をめざして国会運営に内閣が介入できないようにしたが、これがかえって事前審査を強める結果になった。国会に提出された法案をどういう優先順位で審議するかは議院運営委員会で決まり、内閣は関与できなかったため、法案提出前に政府・与党で協議して100%完成された法案を出すようになったのだ。
本当の意思決定は政調会の前に終わっている
議院内閣制の国では、議会の多数党が内閣をつくるので両者に対立はなく、イギリスでは内閣の提出した法案が議会で修正されることも珍しくない。これに対して日本では国会が何を重要法案とするかを決めて審議日程まですべて決め、法案が国会で修正されることはほとんどない。
このため閣議決定の前に与党の意思統一をして国会で造反が出ないように、事前審査を慎重にやり、議決では党議拘束をかけるのだ。だから総務会が全会一致になるのは、国会の混乱を避けるルールなのだ。
しかしすべての法案で、全会一致は不可能だ。そういうときは総務会長が、反対派に徹底的に反対論をいわせて「ガス抜き」した上で、「では会長一任でよろしいでしょうか」といって収める。しかし利害対立が激しい問題では、いつまでも「異議なし」の声が出ないので、法案を先送りしてしまう。
現実には、政調会の部会に出る前に根回しは終わっているのが普通なので、私のドミナント規制事件のように総務部会で廃案になるのは異例だ。これは総務省始まって以来の不祥事で、当時の有富電気通信部長以下、関係者はみんな左遷された。
ということは、実質的には政調会に出る前の「合議」(あいぎ)と呼ばれる各省折衝が実質的な山場である。この相手は各省のプロだから、少しでも他省の権限を侵害する法案は拒否され、予算関連法案では財務省から各省担当の主査が10人も出てくることがあるという。
政治家の根回しは「ポンチ絵」と呼ばれるマンガを描いた3ページ以内の大きな字で書いたチラシで行われる。私も描いたことがあるが、「アゴラこども版」のレベルだ。彼らには政策の中身はわからないので、「合議で了解されました」といえば、たいていは通ってしまう。
だから本書のような事前審査も、大企業でよくある「根回しの終わった会議」で、本当の合意形成はそれまでの「廊下トンビ」や各省間の膨大なメールやファックス(!)のやり取りで行われる。この水面下の過剰なコンセンサスをなくさないと、政治主導は実現できない。
議院内閣制の国では、議会の多数党が内閣をつくるので両者に対立はなく、イギリスでは内閣の提出した法案が議会で修正されることも珍しくない。これに対して日本では国会が何を重要法案とするかを決めて審議日程まですべて決め、法案が国会で修正されることはほとんどない。
このため閣議決定の前に与党の意思統一をして国会で造反が出ないように、事前審査を慎重にやり、議決では党議拘束をかけるのだ。だから総務会が全会一致になるのは、国会の混乱を避けるルールなのだ。
しかしすべての法案で、全会一致は不可能だ。そういうときは総務会長が、反対派に徹底的に反対論をいわせて「ガス抜き」した上で、「では会長一任でよろしいでしょうか」といって収める。しかし利害対立が激しい問題では、いつまでも「異議なし」の声が出ないので、法案を先送りしてしまう。
現実には、政調会の部会に出る前に根回しは終わっているのが普通なので、私のドミナント規制事件のように総務部会で廃案になるのは異例だ。これは総務省始まって以来の不祥事で、当時の有富電気通信部長以下、関係者はみんな左遷された。
ということは、実質的には政調会に出る前の「合議」(あいぎ)と呼ばれる各省折衝が実質的な山場である。この相手は各省のプロだから、少しでも他省の権限を侵害する法案は拒否され、予算関連法案では財務省から各省担当の主査が10人も出てくることがあるという。
政治家の根回しは「ポンチ絵」と呼ばれるマンガを描いた3ページ以内の大きな字で書いたチラシで行われる。私も描いたことがあるが、「アゴラこども版」のレベルだ。彼らには政策の中身はわからないので、「合議で了解されました」といえば、たいていは通ってしまう。
だから本書のような事前審査も、大企業でよくある「根回しの終わった会議」で、本当の合意形成はそれまでの「廊下トンビ」や各省間の膨大なメールやファックス(!)のやり取りで行われる。この水面下の過剰なコンセンサスをなくさないと、政治主導は実現できない。