朝鮮半島やシリアで、情勢が緊迫してきたので更新。戦争を安全保障のジレンマと考えて、協力から入って裏切りには報復する「しっぺ返し」(Tit-For-Tat)を最適戦略と考える人が多いが、これは誤りだ。くわしい証明は、たとえばBinmore-Samuelsonにあるが、TFTは2人ゲームでは強いが、一般的な多人数ゲームでは、つねに裏切るGRIMのほうが強い。

そもそも安全保障のジレンマでは戦争が唯一の解(支配戦略)なので、平和を説明できない。長谷部恭男氏もこの点について「国際政治は囚人のジレンマではなくチキン・ゲームだ」というが、ここではナッシュ均衡が一つに決まらないので、自衛隊の「実質的な根拠は条文の外側にある」というように論理が迷走して結論が出ない。これは出発点が間違っているからだ。
囚人のジレンマとチキンゲームは、次のような共通利益ゲーム(タカ・ハト・ゲーム)という一般形の特殊なケースである。c<1のときは囚人のジレンマ、c>1のときはチキンになるので、両者は双方がハトになる右下の平和は通常の(論理的な)ナッシュ均衡では実現しないが、これを進化ゲームと考えると、事前のコミュニケーションによって平和を実現できる。

タカハト
タカ1-c 2
ハト 0  1


具体的には、あらかじめ敵か味方かを識別する合言葉(secret handshake)を決め、敵は攻撃し、味方とは協力する差別的協調戦略をとればいいのだ。これが条約だが、このしくみでは条約を破る国が出てくる。

こうした嘘つきを排除するには、事前の投資によるコミットメントが必要だ。たとえば軍事同盟で基地を建設すれば、戦争で逃げると無駄になる。日本も集団的自衛権にコミットすれば逃げられないから、アメリカも日本を守る。

国際社会には主権者がいないので、ゲーム理論的な状況に近い。ここで平和を維持する戦略として重要なのは、共通の価値観(合言葉)とともに、軍事同盟による強いコミットメントである。いざとなったら「憲法の制約」を理由に逃げる長谷部氏のような一国平和主義は、ゲーム理論的に無意味であるばかりでなく、政治的にも効果がない。