いまだに古賀茂明氏の妄想があちこちで取り沙汰されているが、官邸が圧力をかけたという証拠は何一つ出てこない。当たり前だ。官房長官がそんな稚拙な形で圧力をかけるはずがないし、そんな必要もない。むしろメディアの側から、政権にすり寄ってくるのが普通だ。
朝日新聞は紙面では派手に安倍批判をやっているが、経営陣は政権と手を打とうとしていた。その証拠が、昨年8月の慰安婦特集だ。あれはもともと社内で極秘に進めていた調査の結果を、木村伊量元社長が記事にすると決めたものだ。この経緯は第三者委員会の報告書にもこう書かれている。
政府において河野談話の出された経緯を検証するとの方針が発表されており、当該検証の際に吉田証言も俎上に上る可能性があったため、朝日新聞としては、特に吉田証言を中心に検証することとし、政府の検証結果をみながら遅くとも2014年中には記事にするという方向となった。[…]この検証は、日常扱う記事とは異なり、多分に危機管理に属する案件であるとし、経営幹部がその内容に関与することとした
慰安婦は、朝日の経営問題だったのだ。経営再建の一環として安倍政権との関係を修復し、2期目をねらうのが木村氏の戦略だった。彼は2012年の安倍総裁就任のあと会談し、慰安婦問題にかたをつけると約束したという。木村氏はもともと自民党竹下派の担当で「保守」を自認しており、これを機に「社内野党」の社会部勢力を一掃するつもりだったようだ。

しかし肝心の特集記事で謝罪しないで開き直ったことが、かえって反発を呼んだ。社会部は池上問題のような役員会案件を週刊誌にリークするなど、木村追い落としの派閥抗争に発展し、相討ちになって経営陣が崩壊してしまった。今や社内は戒厳令状態で、記者のメールを経営がチェックして、週刊誌に売り込んだと疑われれると査問を受けるそうだ。

そんな中で本社とテレ朝の関係が強まり、傍流で「左翼の楽園」になっていたテレ朝の管理が強化されているようだ。今回の人事異動もそういう流れの一環かも知れないが、古賀氏の後任として中島岳志氏など朝日の「御用文化人」が起用されているのをみると、よくも悪くもテレ朝の左翼バイアスはあまり変わらないのではないか。

こうした背景については、16日発売のPHP新書『戦後リベラルの終焉:なぜ左翼は社会を変えられなかったのか』でくわしく解説したので、お読みいただきたい。