正月早々むずかしい話で恐縮だが、年頭に安倍首相のめざす憲法改正の意味を考えてみるのもいいだろう。彼を含めて右派の人々が意識しているのは、日本の主権(sovereignty)を実質的にはアメリカがもっている現状だ。
これを是正して一人前の主権国家になるという目標は悪くないが、それは自明の概念ではない。ウェストファリア条約は神聖ローマ帝国を300の領邦に分割したが、「至高の存在」という意味でsovereignな国家が300もあること自体が矛盾していた。その後も、戦争や併合は続いた。
これを是正して一人前の主権国家になるという目標は悪くないが、それは自明の概念ではない。ウェストファリア条約は神聖ローマ帝国を300の領邦に分割したが、「至高の存在」という意味でsovereignな国家が300もあること自体が矛盾していた。その後も、戦争や併合は続いた。
本書のタイトルは奇抜にみえるが、実はそうでもない。カール・シュミットがいったように、主権者とは例外的な事態について決定する法の上に立つ存在だが、獣(人間ではない者)は法の下にある。前者の権力は、後者を国家から排除することで成り立っているのだ。
逆にいうと主権は、「人間」以外を排除する暴力で支えられている。アガンベンは、主権をになう市民からなるビオス(社会的な生)と、それ以外の難民などのゾーエー(むき出しの生)の差別を近代の「生政治」の基礎だとしたが、デリダはこれを執拗に批判する。
アリストテレスが人間を「政治的動物」と規定したように、ギリシャの昔から政治はゾーエーを含んでいた。それどころか動物的な恐怖――特に肉体的な死の恐怖――に訴えることで政治権力は維持されてきた、というのがホッブズ以来の近代政治学の認識だ。この意味で、フーコーのいう「死の政治」と「生政治」は切れていない。
主権とは、国家の中のこうした動物的な部分を抑圧して「ロゴスによる統治」をよそおい、被支配者である国民が選挙によって「主権者」になると思わせる組織された偽善(Krasner)である。ロゴスとは何よりも、人間と獣の閾を画し、暴力の対象を獣(とみなされる者)に限定するための概念装置なのだ。
主権国家は、その内なる獣を抑圧し、他国を排除する閾によって成り立っているので、みずからその閾を壊す連邦国家が成り立つことはむずかしい。それは近代国家の依拠している偽善を白日のもとにさらしてしまうからだ。そして今、EUは神聖ローマ帝国の主権なき混沌に戻ろうとしているようにみえる。
日本は古来、主権を徹底的に拒否してきた。形式的な主権者である天皇は、受動的に「まつられる」存在であり、何も決めないことで1000年以上続き、国家の同一性を維持してきた。この世界にもまれに見る伝統は、ポストモダン国家の最先端なのかもしれない。
このような曖昧さを安倍氏がきらうのはわかるが、憲法改正で主権を「取り戻す」ことはできない。それはデリダも丸山眞男も指摘するように、近代国家の本質的な欺瞞だからである。
逆にいうと主権は、「人間」以外を排除する暴力で支えられている。アガンベンは、主権をになう市民からなるビオス(社会的な生)と、それ以外の難民などのゾーエー(むき出しの生)の差別を近代の「生政治」の基礎だとしたが、デリダはこれを執拗に批判する。
アリストテレスが人間を「政治的動物」と規定したように、ギリシャの昔から政治はゾーエーを含んでいた。それどころか動物的な恐怖――特に肉体的な死の恐怖――に訴えることで政治権力は維持されてきた、というのがホッブズ以来の近代政治学の認識だ。この意味で、フーコーのいう「死の政治」と「生政治」は切れていない。
主権とは、国家の中のこうした動物的な部分を抑圧して「ロゴスによる統治」をよそおい、被支配者である国民が選挙によって「主権者」になると思わせる組織された偽善(Krasner)である。ロゴスとは何よりも、人間と獣の閾を画し、暴力の対象を獣(とみなされる者)に限定するための概念装置なのだ。
主権国家は、その内なる獣を抑圧し、他国を排除する閾によって成り立っているので、みずからその閾を壊す連邦国家が成り立つことはむずかしい。それは近代国家の依拠している偽善を白日のもとにさらしてしまうからだ。そして今、EUは神聖ローマ帝国の主権なき混沌に戻ろうとしているようにみえる。
日本は古来、主権を徹底的に拒否してきた。形式的な主権者である天皇は、受動的に「まつられる」存在であり、何も決めないことで1000年以上続き、国家の同一性を維持してきた。この世界にもまれに見る伝統は、ポストモダン国家の最先端なのかもしれない。
このような曖昧さを安倍氏がきらうのはわかるが、憲法改正で主権を「取り戻す」ことはできない。それはデリダも丸山眞男も指摘するように、近代国家の本質的な欺瞞だからである。
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