冨山和彦氏のプレゼンテーション「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」が話題になっている。
これは9月に「まち・ひと・しごと創生会議」で安倍首相に説明したものらしいが、今後の大学教育のあり方に重要な問題を提起している。ニューズウィークでも書いたように、日本の製造業や情報産業などのG型産業はグローバル化して国内の雇用は減るので、雇用を支えるのはローカルな流通・外食・介護などのL型産業だ。おそらく9割が後者になるだろう。

G型企業で必要とされるのは、ソフトウェアを中心とする理系の技術だが、L型企業に必要とされるのは、情報通信機器を活用して労働集約的な仕事を効率化するITリテラシーなどの実用的知識である。

アカデミックなG型大学も必要だが、それは今の1割もあれば十分だろう。はっきりいって、旧帝大と慶応ぐらいしか、アカデミックな教育はしていない。特に文系の大学は基本的に必要ないので、名前は大学のままでいいから職業訓練校にすべきだ。それがL型大学である。

冨山氏の例示した科目には変なものもあるが、たとえば「経営学」などというものを大衆化した大学で教える意味はない。彼らの大多数は、経営者にはならないからだ。彼の例には経済学はあがっていないが、アゴラでも書いたように、今の経済学は基本的に私の学生時代と同じなので、大学教師のほとんどは研究者ではなく、高校教師と同じ仕事をしている。

それでいいのである。理系の研究はつねにフロンティアがあり、若いうちにトレーニングする必要もあるが、文系の科目は、余暇の教養として社会教育にすべきだ。大部分のL型労働者にとっては、哲学や社会学を習うより、英語や簿記を使えるようになることが重要だ。

それより教育予算を使うなら、幼児教育である。大学に入った段階では、G型労働者とL型の差はついており、挽回はできない。小さいころから文字を教えて、抽象的な思考能力を高めることが大事だ。またL型産業の中心は女性だから、彼らの就業率を高めるためにも、幼児教育は政府や自治体が支援したほうがいい。