きのうの言論アリーナは、元日銀理事の早川英男氏と、おなじみ小幡績氏だったが、一致したのは「日本企業のグローバリゼーションは予想以上に進んでいた」ということだ。
初等的な(リフレ派の信じている)マクロ経済学では、円が安くなると輸出価格が下がって景気がよくなるはずだが、企業がグローバル化して海外生産が進むと、そうは行かない。ただ円安が定着すると、海外に移転した拠点が国内に戻ってくるだろう。いま貿易赤字が増えているのは一時的な現象だ――と黒田総裁はいっている。

残念ながら、そうは行かない。たとえばパナソニックの海外生産比率は55%だが、海外で生産した製品はほとんどそのまま海外へ輸出されるので、もともと日本を通っていないため、ドル/円は影響しない。また国内で売り上げの出ている45%も、海外で生産して最終工程だけ日本でやって、本社の単体決算を「お化粧」しているケースが多い。

円高になると海外生産が増えてお化粧が一時的に増えるが、円安になるとお化粧をやめるだけで生産拠点は国内に戻らない。というのは、今はグローバルに連結決算できるので、お化粧の必要がなくなったからだ。株主からみると、人件費や法人税率やエネルギーコストなどのポートフォリオを総合的にみて最適の国で生産するので、為替が動いてもグローバル化は元に戻らない。

これがもっと極端に進むと、アメリカのように経常収支は赤字なのに経済はピンピンしているという状態になる。世界全体では、ピケティも指摘するように、先進国の純資産は-5%で、新興国もマイナスだ。したがって全世界で対外純資産がマイナスなのだ。人類は火星に借金しているのだろうか?

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もちろんそんなことはありえないので、オフバランスの資産がどこかにあるはずだ。それがタックスヘイブンで、ピケティの推定では図のように、世界のGDPの少なくとも7%が「地下経済」に隠されている。まじめに対外純資産を計上している日本はバカ正直だが、日本企業が本当のグローバル資本主義になると、経常収支はもっと悪化するだろう。