問題の池上氏のコラムが掲載された。内容は当たり前のことを書いているようだが、朝日が認めたくないことが書かれている。
[吉田]証言に疑問が出たのは、22年前のことでした。92年、産経新聞が、吉田氏の証言に疑問を投げかける記事を掲載したからです。こういう記事が出たら、裏付け取材をするのが記者のイロハ。朝日の社会部記者が「吉田氏に会い、裏付けのための関係者の紹介やデータ提供を要請したが拒まれたという」と検証記事は書きます。この時点で、証言の信憑性は大きく揺らいだはずです。朝日はなぜ証言が信用できなくなったと書かなかったのか
これは(私も含めて)多くの人が指摘している重要な疑問だ。「従軍慰安婦、消せない事実 政府や軍の深い関与明白」と題する1997年3月31日の記事はこう書く。
済州島の人たちからも、氏の著述を裏付ける証言は出ておらず、真偽は確認できない。吉田氏は「自分の体験をそのまま書いた」と話すが、「反論するつもりはない」として、関係者の氏名などデータの提供を拒んでいる。
わかりやすくいうと、こういうことだ:「日本軍が女性を誘拐した」という情報の売り込みがあった。しかし取材したら、裏が取れなかった。いくらおもしろい話でも、裏の取れない話は記事にしない。特に犯罪のからむ誤報については、事後的に判明した場合も訂正を出すのが報道のルールだ。これがもし「吉田清治が女性を誘拐した」という記事だったら、誤報と判明した段階で訂正を出すだろう。

ところが17年前に、朝日はそれを知りながらごまかし、「真偽は確認できない」と書いた。誤報で名誉を毀損された被害者が特定の個人ではなく、日本国民だったからだ。この問題は、いま一部の人々が準備しているように、名誉毀損訴訟の対象になりうる。

これは朝日の主張のコアにかかわる。先月28日の記事でも朝日がくり返し主張しているのは、「吉田証言を報じた記事を取り消しても河野談話はゆるがない。本質は強制連行ではなく女性の人権だ」という主張だ。

しかし池上氏が指摘しているように、今回の記事は事実関係の検証だから、なぜ1992年に誤報だとわかった強制連行を訂正しなかったのかということが本質である。この22年間に、この問題をめぐって日韓関係が紛糾したとき、訂正するチャンスは何度もあったのに、なぜ今回の記事でも、取り消したのに謝罪しないのか。それは謝罪したら、木村社長の進退問題になるからだ。週刊文春によれば、彼は
長年にわたる朝日新聞ファンの読者や企業、官僚、メディア各社のトップ、ASA幹部の皆さんなど多くの方から「今回の記事は朝日新聞への信頼をさらに高めた」「理不尽な圧力に絶対に負けるな。とことん応援します」といった激励をいただいています。「慰安婦問題を世界に広げた諸悪の根源は朝日新聞」といった誤った情報をまき散らし、反朝日キャンペーンを繰り広げる勢力に断じて屈するわけにはいきません。
と徹底抗戦を宣言している。本当は、悪いとは思っていないのだ。池上氏のように取り消した記事について謝罪するよう求めることが、なぜ「反朝日キャンペーン」なのか。木村氏は記者会見して、本質が誤報ではなく「女性の人権」であることを説明する義務がある。