慰安婦問題を針小棒大に語って世界に誤解をまき散らしたのが、福島みずほ氏を初めとする「人権派」の弁護士である。そして彼らは、自分の広めた誤解を輸入して「国際的常識」なるものを振り回す。そういう倒錯した論法の典型が、伊藤和子というNGO事務局長の記事だ。彼女の紹介しているナビ・ピレイ国連人権高等弁務官の次のような見解は、国連の公式見解として出されているだけに問題が大きい。
2010年に日本を訪問した際、私は政府に対し、政治制度の被害者に対して効果的な補償措置を提供するよう呼びかけた。[…]国連自由権規約委員会が、日本政府に対し、全ての性的奴隷に関する訴えを調査し、実行者を訴追するために効果的な法的・行政的措置を直ちにとるよう求めている。
つまり国連は、一般論として「女性の人権保護」を求めているのではなく、日本政府が元慰安婦に個人補償し、当時の責任者を訴追するよう求めているのだ。これは東京裁判と日韓条約で解決ずみであり、それ以外に訴追や個人補償をすることは国際法違反である。

国連がこういう常軌を逸した「警告」を出す根拠は、1996年のクマラスワミ報告に始まる「性奴隷」を糾弾する報告書だ。これを国連に売り込んだのも戸塚悦朗という弁護士で、外務省が国連に反論しなかったため、「国際的常識」として定着してしまった。しかしこの報告書の最大の論拠は、吉田清治の証言なのだ。

ちょうど産経が取材しているが、「朝日新聞が5日に吉田証言を『虚偽』と認めた直後だったが、クマラスワミはこれには直接触れず、『明らかに大部分で強制性があった』と河野談話の検証を批判した」という。それはそうだろう。吉田証言を否定すると、これまでの国連の日本に対する「警告」がすべてくつがえるからだ。

そして伊藤氏のような弁護士が、こういう誤解を逆輸入し、「人としてどうよ」などという幼稚な論理で政府を攻撃する。彼女は「ドイツはナチスのホロコーストの歴史について、加害責任を認めて謝罪の意思を鮮明にした」というが、日本軍が慰安婦を大量虐殺したとでも思っているのか。

条約で決めた賠償を変更するには、日韓条約を新たに締結するしかない。そのとき「1965年以降に判明した戦争被害は、民間人であっても補償する」という規定を設けたら、32万人と推定される男性の「強制連行」の被害者が補償を求めて訴訟を起こし、民間から雇用された従軍看護婦など、あらゆる元軍属が補償を求めるだろう。

軍と雇用関係のなかった慰安婦に個人補償したら、戦後補償はすべてやりなおしだ。それは福島氏や伊藤氏のような弁護士にとってはおいしいビジネスだが、すべて補償するには数兆円単位の国家予算が必要だ。

「女性の人権」を振り回せば相手は黙ると思ったら、大きな間違いだ。女性の人権を否定する人はいないが、男性の人権はどうなるのか。男性の労働者は、花岡事件のように数百人が殺される事件も起こったが、政府は賠償していない。賠償したのは民間企業の鹿島である。

日本政府は、慰安婦問題を最大限まじめに受け止めて謝罪し、国家賠償ではないアジア女性基金という形で賠償してきた。韓国政府がそれでも足りないというから、話がこじれているのだ。日韓条約は包括的な資金供与なので、使途は限定していない。どうしても慰安婦に個人補償したいのなら、韓国政府が払えばいいのだ。