今年の4~6月期の実質GDP成長率は、民間調査機関によると年率-7%ぐらいになりそうだ。これを「消費増税が原因だ」という手合がいるので、そのネットの影響を確認しておこう。

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消費増税前後の成長率(前年同期比%)出所:内閣府
上の図は、今回の成長率(4~6月期は推定)を前回(1997年4月)の増税のときと比べたものだ。一見してわかるのは、前回に比べて山が低く谷も深いということだ。山が高くて谷が深いのなら「駆け込み需要の反動」という政府の説明も成り立つが、今回マイナスになった分は増税以外の要因と考えるしかない。

その最大の違いは、インフレ率である。1997年の総合CPI上昇率は0.5%(増税分を除く)だったのに対して、今回は1.6%。これによって企業のコストは上がり、実質賃金は下がった。このメカニズムをマクロ経済学の教科書でおなじみの総需要と総供給の関係で考えてみよう。

いま経済が均衡状態にあり、GDPがYでインフレ率がPだとする。これに対応する総需要曲線ADと総供給曲線ASの関係は、図のようになる。新古典派の需給関係をそのままマクロに拡大したものだと思っていい。ここで物価がP'に上がるメカニズムは2種類ある。
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一つは総需要が増えてADがAD’になるデマンドプル・インフレだ。これがアベノミクスの想定したよいインフレだが、残念ながら、ゼロ金利では量的緩和でADを増やすことはできなかった。

もう一つは総供給が減ってコストが上がり、潜在GDPがY"に下がるコストプッシュ・インフレだ。これは供給制約による悪いインフレであり、現実にみられるエネルギー価格などの上昇とGDPの減少は、これを裏づけている。

これから「増税で景気が冷え込んだから追加緩和しろ」とか「補正予算を組め」という話が出てくると思うが、無理に総需要を嵩上げすると、AD"のような状態になって物価がP"に上昇し、70年代の石油ショックのような大インフレが起こるおそれが強い。この所得水準は維持不可能なので、いずれGDPはY"に戻り、インフレだけが残る。

今後の推移をみないと断定的なことはいえないが、今の段階ではっきりしているのは、需要を追加する景気対策は問題を悪化させるということだ。まず最大の供給制約になっている原発の正常化が出発点だ――それですべての問題が解決するわけではないが。