さっきの続き。以前の記事で紹介したUV分析で、人手不足の原因を考えてみよう。下の図は、労働研究・研修機構が1960年代以降の雇用失業率(自営業などを除く失業率)と欠員率(人手不足)の関係をプロットしたものだ。2000年代に入って上方にシフトし、人手不足と失業が増えたが、2010年代に雇用が改善して右下に移ってきた。

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別の表でも、自然失業率(均衡失業率)との差は0.18%で、現状は完全雇用に近いが、すべての人が適切な職につけるわけではない。労働市場に摩擦がなければ、労働需要が供給を上回った場合は欠員だけ(横軸)、下回った場合は失業だけ(縦軸)が生じるはずだが、現実には雇用のミスマッチが大きいので、人手不足が起こっても賃金は上がらないのだ。

ミスマッチの最大の原因は、正社員をいったん増やすと減らせない雇用規制のために、欠員を残業や非正社員で埋めることだ。このため非正社員は人手不足だが、正社員の賃金は上がらない。雇用統計でも、残業は7.4%も増えているが、実質賃金は下がっている。

この図からいえるのは、雇用の改善は2010年から起こっている景気循環で、アベノミクスは影響していないということだ。ここでインフレによって実質賃金をさらに下げると、おそらく図の右下、つまり失業は減るが人手不足がひどくなり、労働者の所得が減って企業貯蓄が増え、需要不足は悪化する。

黒田総裁お得意の「世界標準」でも、自然失業率に達したら金融緩和をやめるのが常識だ。アメリカの失業率は6.3%になり、FRBの目標である6.5%を下回ったので、イエレン議長はテーパリングをしている。日本も景気循環は最終局面に来たので、量的緩和は有害無益だ。

必要なのは雇用規制を緩和してミスマッチを減らし、自然失業率を下げる(UV曲線を下にシフトさせる)ことだ。厚労省のやっているように正社員の保護を強めると、人手不足と残業が増え、労働生産性は悪化する。労働市場を柔軟にして自由な働き方を可能にすることが、労働者にとっても経済成長にとっても望ましい。