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きのうの言論アリーナは、原子力規制委員会の安全審査がテーマだった。諸葛宗男氏も確認したのは、委員会が既存の原発の設置許可をやり直しているという驚くべき事実だ。しかもその根拠は、委員会設置法でも原子炉等規制法でもなく、田中俊一委員長の原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針(私案)というたった3ページのメモである。
そこには「規制の基準を満たしていない原子力発電所は運転の再開の前提条件を満たさないものと判断する」と書かれ、「設置変更許可、工事計画認可、保安規定認可といった関連する申請を同時期に提出させ、ハード・ソフト両面から一体的に審査する」としている。ここでいう「規制の基準」とは、2013年に新たに定められた安全基準のことだ。つまり既存の原発に新しい安全基準を遡及適用し、設置許可などの審査をすべてやり直せと書いているのだ。

電力会社はこの私案が法的根拠だと思っているようだが、これは委員会の決定ではなく、もちろん法律でも政令でもない。何の法的拘束力もない田中氏のメモにすぎない。それが法律に準じているならいいが、法律のどこにも「委員会が既存の原発に設置許可を出す」とは書かれていない。当然である。それは憲法違反の遡及適用だからだ。

この背景には、民主党政権(特に菅首相)の意思がある。菅氏は「原発を二度と動かせないしくみをつくった」と公言し、田中委員長に圧力をかけたことを隠していない。田中氏も、委員長に指名されたとき原子力村の出身だと批判されたので、「安全性のためにはコストを考えない」と公言して、身の潔白を証明しようとした。そのコストは彼ではなく電力利用者が払うのだから、これは他人の金で自分の名誉を買うモラルハザードである。

このような田中氏の暴走を、誰も止めることができない。独立性の強い3条委員会にしたため、他の官庁のコントロールがきかなくなったのだ。経産省も「新聞に書いてあることしかわからない」という状態で、この田中私案もほとんど知られていない。3条委員会を推奨した諸葛氏も「こんなひどいことになるとは思わなかった」と反省していた。

番組でも議論したが、行政法では遡及適用(バックフィット)は絶対だめというわけではない。それによって高まる公益が事業者の損失より大きければ、事業者に賠償してでもバックフィットすることはありうる。問題は今の原発がそういう法的な手続きをまったく踏まないで、民主党政権が恣意的に止めたまま放置されていることだ。

原子力規制委員会は、何を法的根拠にして原発の設置許可を2度も出すのか。既存の原発が新基準を満たしていないと「運転の再開の前提条件を満たさない」のはなぜか。このように違法な行政指導を許すと、日本は中国と同じ無法国家になる。