安倍政権が発足して1年たった。しかしリフレ派の田村記者も認めるように、株価は上がったが、実体経済はほとんど改善していない。

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図1
株高の原因は、円安で割安になった日本株を外人がポートフォリオに組み込んだことと、円安→輸出増→好景気という予想で輸出産業の株が買われたことだ。たしかにトヨタの業績は劇的に改善したが、電機産業は輸入超過に転落した。全体としては輸出数量は減り、今年の貿易赤字は過去最大になる見通しだ。

こうなった最大の原因は、日本がもはや「貿易立国」ではなく、製造業が海外生産に移行したためだ。図2のように、海外生産比率は20%に近づき、繊維製品やテレビなどコモディタイズした商品の9割以上は、海外の工場で製造した輸入品だ。これは円高に適応したためだが、そのコストは円安で大きく上昇した。


図2

このような「空洞化」は、必ずしも嘆くべきことではない。付加価値が日本に還元されて雇用が維持されれば、むしろ望ましい。問題はそうなっていないことだ。図1のように、日経平均に組み込まれている輸出産業の収益は大きく上がったが、輸入コストの上がった流通などの収益は落ちた。

つまり企業の中でも、円安の恩恵を受ける大企業と受けない中小企業の企業間格差が拡大しているのだ。輸出部門の比率は関連産業を合わせて3割ぐらいだから、円安で日本経済全体の潜在成長率は下がるおそれがある。こういう長期的な影響は、一時的な「Jカーブ効果」の調整される来年あたりから出てくるだろう。

日本には超効率的な輸出産業と規制だらけの国内産業の二つの経済があるが、アベノミクスはその構造を変えないで格差を拡大しただけだ。その唯一の政策だった日銀の量的緩和も、円安を促進して株高を演出した心理的効果ぐらいしかなかった。

日経平均は、明らかに上がりすぎだ。それはバブルというほど高水準ではないが、TOPIXと比べても3%ぐらい高く、大企業バイアスが見られる。アベノミクスは偽薬としてはよくきいたが、その効果はそろそろ消えるだろう。